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世界観やテイストのカテゴライズを越えて|廣瀬結惟子のBedtime Stories【第4回・最終回】

MANAZASHI

前回のストーリーから読む
→【第1回】現代を生きる乙女の祈りと、淡水パールのいびつなクロス
→【第2回】プラスチックビーズのシャンデリアーイヤリング
→【第3回】創作のルーツに向き合うとき

MANAZASHI・廣瀬結惟子プロフィール

大学院での哲学研究を経て、2017年よりMANAZASHIとしてアクセサリー制作の活動を始める。「何者」にもなれない現代の乙女たちの煌めきに共鳴し合うものを生み出すことを目指している。それは作家なりの、時代の根底で隠れて蠢いている感情とこれからのアクセサリーのあり方への問いでもある。趣味はアンティークやガラクタ蒐集。定期的に骨董市をまわり、自分のこころと周波数を似通わせたものを探している。

このたったひとつのネックレスを構成するパーツたちは、年代も由来する国や地域も様々です。ドイツヴィンテージのインデックス・フレーム、イギリスヴィンテージの小さな鍵、フランスアンティークのぼろぼろのタッセル、インドの民族鈴、シェルビーズに奇妙な模様のボーンビーズ、そしてジャパンヴィンテージのドールハンド。この全体に漂うカオスな雰囲気を果たして何と呼べば良いのか、私自身も迷ってしまいます。それはどこか遠くの、ここではない遥か異国の……夢を見ている。

明確なカテゴリーを与えることによって私たちは理解を深めますし、もっと言うならばお洋服のコーディネートにも取り入れ易いかもしれません。けれど何だかわたしはこの「よく分からない」雰囲気という曖昧な次元をどこか愛してしまっている部分があり、その怪しく揺れるムードにどうしようもなく魅せられてしまっているのです。

アンティークやヴィンテージのパーツを使用して作品を制作されている方は今沢山いらっしゃると思います。何故、古い材料を使おうと思うのでしょうか?例えば「一点ものを作りたいから」「現行のものとは一味違うデザインを作りたいから」など、いくつかの返答のモデルは容易に思い浮かびますが、この問いについて明確な自分自身の答えをもっている方ってそんなに多くないんじゃないかって思うんです。実はわたし自身もよく分かっていない。昔からヴィンテージのお洋服を纏い、愛し、蚤の市に通ってはアンティークの小物を買い集めてきたけれども、「なぜですか?」って聞かれたらドキッとしてしまいます。だって上手い答えが見つからない。

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ところで、わたしの作るアクセサリーには決まった、固定化された全体を通しての「テイスト」と呼ばれるものがありません。そういったものは、始めに意図的に設えるものではなく、手仕事を重ねるうちに、そしてたくさんの時間と労力を重ねるうちに、自然と出来上がってゆくものでもあると今は思いますが、昔はこのことでちょっと悩みました。大まかでもいいから、「全体としてわたしはこういう雰囲気のものを作っています」という外枠みたいなものがないと、お客さんから見ればどうしても導入し難い感じがありますし、彼らの理解の眼差しを何だか無視しているのではないか・・・?と。

ヴィンテージのお洋服と出会う前、わたしは一つのブランドの世界観で全身を固めるのが好きでした。それはわたしにとっての安心でした。非常にわかりやすく記号化された自分の姿を、世界の理解の網目は絡み取って容易に読み取ってくれる。ちゃんと、イメージした通りにそこに存在できる。

そんなわたしの考えを変えたのは、一着の古きドレスとの出逢いだったような気がします。長い長い年月をかけて今ここに存在する一枚の布地の奇跡は、わかりやすく記号化されて読み取られることよりもずっと尊い存在の事実をわたしに突き出しました。そしてそれを身に纏うということは、ずっと知らなかった、これからも知らないかもしれない遠い何処か、何時か、誰か、との対話を想起させました。揺れ動き出した空間と時間軸は明確に読み取れる記号によるものとは全く違うソワソワとした気分を呼び起こし、しかしその気分には不思議と魅せられるものがあり、そしてどこか懐かしいとも思え、覆い隠してきたこころの一部と再会を果たしたような感じでした。そしてかつて頑固な記号の鎧を纏っていた臆病な肌と、これほどにリズムを同じくする布地はないと思いました。そのドレスの裾がひらり、ひらりと空中を泳ぐ度に、わたしは自身のこの存在のもどかしい不安を愛してゆきました。

MANAZASHI

古着が古着にまつわるカテゴライズを逃れるとは思っていません。むしろその歴史は、作られた国だとか、年代だとか、非常に細かなカテゴリーを有すると思います。けれどそういうものに先立つ事実、つまり「遺されてきた」という事実。この尊さに、何が勝れるだろう、そしてその記憶の深みを、カテゴリーという括りだけで読み取ってしまうことなんて一体誰に出来るのだろう?布地に遺る不明瞭で曖昧、しかし同時に確かでもある存在の痕跡。少なくともひとりの少女のこころは、そこに「懐かしさ」を見つけました。

わたしがアクセサリーへ様々な由来を持つ材料をごっちゃに織り込むのは、空間が、時間が、世界が揺れるこの空気感をどこか感じ取って頂きたいからかもしれません。ブランドだったりテイストだったり明確にカテゴライズされたものを纏うのも良いけれども、わたしは自身の作るアクセサリーが、より誰かの「生身の感情」に沿うものであって欲しいって願っていて、何処とか何時とか誰のとかいう確かな規定をゆらゆらとかわしてゆく曖昧性や、危うげで朧げな輪郭線や、そういうこころのなかの秘められた不安に調子を同じくするものを作れたらなって、ぼんやりと思っています。そう、この『遠い異国を夢見るネックレス』を作る時にもそう思っていたように。

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ライター

廣瀬 結惟子
廣瀬 結惟子
慶應義塾大学文学部哲学専攻卒業。同大学院中退後、少女時代からの心の支えであったもの作りの展開を目指し、MANAZASHIとして活動を開始する。アンティークの蒐集が趣味。