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弱点も使い方もアップデートしたのは、伝統を残したかったから

提供:株式会社ナカニ

手ぬぐいと聞くと、盆踊りに持っていったり剣道で使ったり、畑作業のおばあちゃんを想像していました。例えば、映画『となりのトトロ』のおばあちゃんが頭に巻いているような。

でも、にじゆらの手ぬぐいを見たときにちょっと驚きました。こんなにカラフルでかわいらしい手ぬぐいがあるんだって初めて知ったからです。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ

お得意先様からは『手ぬぐいなんて駄目になる』と言われる事が多くありました。
(中略)
『本当に手ぬぐいは駄目なのか?手ぬぐいの事を伝えるべく精一杯手を尽くしてみよう』そう覚悟を決めました。

注染手ぬぐいブランド『にじゆら』を作る株式会社ナカニの公式サイトには、そんな言葉が書いてあります。一度は手に取る人が減ったにも関わらず、手ぬぐいを続ける覚悟を決めた時に生まれた『にじゆら』は、大阪・堺の町工場から手ぬぐいについて深く考え、広めていき、現在は全国に6店舗のお店を構える人気ブランドに成長しました。

注染手ぬぐいに込めた覚悟や2020年の今、注染手ぬぐいを伝え続ける思いについて聞きたいと思い、今回取材を申し込みました。お話を伺ったのは、自身も手ぬぐいに魅了されたと話すにじゆらのブランドマネージャー、久間文美さんです。

 

注染と手ぬぐいを残したい

――じんわりと滲んだようなにじゆらの手ぬぐい、とってもかわいいと感じました。注染という方法で染められたと聞いたのですが、どんな染め方なんですか?

久間文美さん(以下、久間さん):注染は文字通り、染料を”注いで、染める”技法です。使うのは真っ白な25mほどのさらしもめん。これをまず、じゃばらに重ねながら手ぬぐい1枚分ずつ柄の入った型紙を木枠で固定して防染糊をこすりつけます。糊を置くとも言います。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ 糊置きの工程

25mのさらしもめんに糊を置いたら、今度は染めの作業です。じゃばらに重ねた布の一番上から染料を注いで染めていきます。色を分けたいときは糊で土手を作って色分けします。染料は下から機械で吸引するので、注いだ染料がぐっと下まで浸透するイメージです。これをひっくり返して逆面からも染めます。一度に50枚分の手ぬぐいが染まります。染め上がった布には表と裏がなく、両面染まるのも注染の特徴です。

(詳細な染め方についてはこちらの動画を御覧ください。)

――注染は大阪で生まれた技法なんですか?

久間さん:そうですね。全国に広まったのは大阪で1903(明治36)年に開かれた第5回内国勧業博覧会でお披露目されたことがきっかけだと言われています。にじゆらを展開する弊社は、先代の亡き会長が15年ほど職人をしたのち、同じ場所で1966年に注染工場を創業しました。注染からはじまり、現在はプリントでの染色加工もおこなう会社へと成長しました。

――「手ぬぐいはだめになる」なんて言われた時期もあった中で、それでも「手ぬぐいはまだまだやれる」と思ったきっかけがあったのでしょうか。

久間さん:はい。もっと手ぬぐいをどうにか残せないかと代表が悩んでいたときに、とある手ぬぐいを扱う京都のお店から全面オレンジの中にグリーンを数箇所染めるもみじのグラデーション柄のオーダーが入ったそうなんです。でも当時、注染ではその色合いの組み合わせは「汚い」という意識が染み付いていて嫌がる職人さんが多かったんですね。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ 注染の工程

でも、実際に作ってみたらその滲みやゆらぎが評判になったそうです。それで代表は「こういう見せ方があるのか」と気づいたそうです。それならば弱点だと思っていた滲みやゆらぎ、ぼかしを活かしたブランドを作ったらいいんじゃないかと考えたことが、にじゆらにつながっていきます。

にじゆら

撮影:Craftie 『手ぬぐい|海の時間』

――にじんだり、ゆらいだり。それで名前が『にじゆら』なんですね。そこからブランドが始まったんですか?

久間さん:そうです。手ぬぐいといっしょに、注染もなんとか残したいと代表は思っていたんです。注染は大阪や国の伝統工芸の浪華本染め(なにわほんぞめ)として伝統工芸にも指定されているのに、地元でもあまり深く知られていないんです。だから職人さんも減ってしまっていました。

手ぬぐいが便利だということも伝えたいし、残したい。注染も、職人さんも残したい。そんな思いでにじゆらを立ち上げたんです。

 

堺の街から大阪の伝統工芸を発信

――会社や工場のある堺って、どんな場所なんですか。

久間さん:今の堺は住宅地でもあるので、家と工場が隣り合っています。

堺は元々、綿花の産地でした。もっと南に行くと泉州という地域があって、そこはタオルの産地です。今も近くには石津川という河川があって、昔はそこで生地を洗っていたそうです。ご近所には生地をさらす工場もあるし織屋さんもあるから、堺だけで手ぬぐいを作るための環境は大体揃っていますね。前はもっと町工場があったそうなんですけど、今は廃業されてどんどん住宅が建っています。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ 堺のまち

――職人さんは何人くらい、いらっしゃるんですか?

久間さん:染めと糊置きしている職人さんと、その前後の職人さんをあわせて12,3人ぐらいですね。注染は量産のために、もともとはすべて分業制なんです。糊を置く人、染める人、洗って干す人、みんな持ち場が決まっています。生地を染める人が花形に見えるかもしれませんが、一番難しいのは糊を置く工程です。これがすべての要なので。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ 土手を築く工程

――量産のため、と言われると商売上手な大阪らしさなのかなと思いました。

久間さん:注染自体もさらしを50枚ほど重ねて上から染料をかけて下から一気に吸引して染めて、と短時間で染色させる仕組みだから、画期的だけどすごく大阪人っぽい発想だなって思います。でも、一気に染めてしまうので、細かすぎるデザインは苦手なんです。

企画ができたときに、3階の事務所から階段で駆け下りて1階で作業する職人さんのところに「こんなんできますか?」と聞きにいくこともあるんですけど、「そりゃ難しいなあ」なんて話をしながら、職人さんと近い距離で相談できてより良い商品を作れるのは、とてもありがたい環境だなぁと感じてます。

 

新しいデザインと使用シーンを提案したい

――久間さん自身が思い入れのあるデザインはあるんでしょうか。

久間さん:特に思い入れのあるのはタータンチェック柄の『Scotland』です。手ぬぐいって夏のイメージがあるから、冬でも使ってほしくて温かみのある柄を企画しました。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ  世界のCO-MMONシリーズ『手ぬぐい|Scotland』

でも実は、これを染めるのはとても難しいんです。はじめに縦の線だけ染めて、次に横線のみ染めて、合わせてタータンチェック柄ができる仕組みなんですが、生地ってどうしても歪んでしまうんですよね。直線を注染で表現するのが難しいので、職人さんにどうにか作れないかと相談したやり取りも含めて思い入れがあります。

このタータンチェック柄が好評だったので、そこから『世界のCO-MMON』シリーズも展開しています。日本に青海波のような古典柄があるように、世界にも昔から続く伝統的な柄があるんじゃないかと思ってにじゆらの解釈で各国のモチーフをイメージして作りました。

――手ぬぐいにはなかった柄だなと思いました。レモンもかわいいですよね。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ 『手ぬぐい|limone』

久間さん:これは『旅するにじゆら』という企画で3年くらい前に作ったものです。旅行にも手ぬぐいを持っていってもらいたいと思ってはじめました。手ぬぐいは速乾性もあって、洗った数時間後には乾いているので、旅行におすすめのアイテムです。

海外旅行にその土地をイメージした手ぬぐい持っていくのも楽しそうだなと、例えば南イタリア旅行をイメージしたのがこの『limone』。旅行中、軒先になっているレモンを見つけたらきっと素敵なんだろうなと妄想しながら企画しました。にじゆらの手ぬぐいは、すべてストーリーがあるのもこだわりなんです。

――想像しただけでも旅行に持っていきたくなりました。

久間さん:旅先では何回か洗って柔らかくなった手ぬぐいを枕にもふわっとかけて枕カバーにするのもおすすめです。普段から手ぬぐいを枕カバーにしておけば、慣れない枕もいつもの枕に近づきます。

――手ぬぐいってすごく使えるアイテムなんですね。

久間さん:手ぬぐいは昔から使われているだけあって、使い勝手がとてもいいんですよね。すぐ乾くしかさばらないし、端が切りっぱなしになっているのでかんたんに切り裂けるからもしものときの防災グッズにもおすすめです。

――手ぬぐいを使ったことがない方に、他におすすめの使い方ってありますか?

久間さん:そうですね、インテリアとして取り入れることもお伝えしています。タペストリーや額縁を用意してお部屋に五月人形やお雛様、クリスマスツリーなどの季節の柄を飾るのもとってもおすすめですよ。

提供:株式会社ナカニ 『手ぬぐい|おひなさま』

おうちに飾るスペースがない方や飾る時間がない方でも、手ぬぐいでぱっと季節を感じられるので手ぬぐいを使ったことがない方によくおすすめしています。

にじゆら

提供:株式会社ナカニ 『手ぬぐい|聖なる夜』

 

まずは、手ぬぐいに触れてほしくて

にじゆら

提供:株式会社ナカニ

――手ぬぐい以外の商品もあるんですね

久間さん:手ぬぐいを違う形に落とし込んだものだと『Reカタチ』というシリーズがあります。実際に手ぬぐいとして生産したものを素材にして作っているんです。

――手ぬぐいがうちわや扇子、御朱印帳に変身するなんて驚きました。

久間さん:手ぬぐいって本当に便利な布で自由度が高いんです。テキスタイルにもなるし、タオルみたいに使えるし、おもしろい布だなって思いますね。

手ぬぐいのおもしろさをもっと知ってもらいたくて、ワークショップも開催しているんです。手ぬぐいから巾着を作ったり、手ぬぐいって裂けるんだと知ってもらいたくてボンボンヘアゴムを作ったり。お子さま向けのワークショップに一緒に参加した親御さんのほうが手ぬぐいにはまってしまうこともあるんです。

提供:株式会社ナカニ 注染ワークショップの様子

――今まで触れる機会がなかっただけで、一度知ったら手放せなくなりそうです。

久間さん:そうなんです。わたしも使ったら手放せなくなった人の一人です。だからこそ、どうやって使ったら良いのか悩んでしまう人にも、とにかく手ぬぐいに触れてもらいたいと思って取り組んでいます。

特に子どもたちにももっと触れてほしくて、食育ならぬ注染育プロジェクトも行っています。子どものときに感じた五感って、やっぱりどこか記憶に残ると大人になった今思います。だからお子さんに向けた発信をこれからもしていきたいですね。

今は日本橋のお店で毎日染め体験ワークショップができる環境も作ったり、外出できない期間はインスタライブで染める様子をお伝えしたりしています。

これからはもっと注染や手ぬぐいを伝える活動をして、一層身近なものだと感じてもらえたらいいなと思っています。

 

にじゆらのお店で「注染」の体験ができます。

関西と東京にある「にじゆら」のお店では、注染を体験することができます。百聞は一見にしかず。世の中が落ち着いたらぜひ体験に訪れてみてはいかがでしょうか。外出がなかなかできない期間にはお店からインスタライブの配信もしています。

「注染」の体験をしてみたい方はこちら

お話を聞いた人

にじゆら
株式会社ナカニ にじゆらブランドマネージャー 久間文美さん
注染手ぬぐい「にじゆら」は1966年創業、大阪府南部にある堺市発祥の手ぬぐいブランドです。大阪の伝統工芸である”注染”を後世に伝え、残していくため工場直営ブランドを展開しています。
HP:https://nijiyura.com/

ライター

トモイカナ
トモイカナ
主に書いてるフリーランス。おいしいものとこいきなものが好き。何かしら自分で作ってみたくなるけれど、手先は不器用。