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現代を生きる乙女の祈りと、淡水パールのいびつなクロス|廣瀬結惟子のBedtime Stories【第1回】

MANAZASHI

美しいヴィンテージの家具や、アンティークの古い洋服や雑貨をふと見かけた時、目の前にあるのになぜかしっかり向き合えていないような、なんとなく直視できないような、不思議な気持ちになることがあります。それは、古いながらも確かにあるその輝きが一体どこから発せられているのかすぐにつかめないことへの戸惑いかもしれないし、それぞれのピースが必ず何らかの「物語」を持っていることを、無意識に感じ取るからなのかもしれません。

長い月日を経て人の手から手に渡り、もう今となっては誰にも答え合わせができないであろう、それらの物語。アクセサリー作家の廣瀬結惟子さんは、そのストーリーを一人の個人の視点で想像して、新たなメッセージを乗せたアクセサリーに変身させ、現代の女性たちに届けているのではないかと思うのです。

そんな廣瀬さんのアクセサリー作りにまつわるショートエッセイを、全4回の連載でお届けします。ベッドタイムのお供に、ぜひ。

MANAZASHI・廣瀬結惟子プロフィール

大学院での哲学研究を経て、2017年よりMANAZASHIとしてアクセサリー制作の活動を始める。「何者」にもなれない現代の乙女たちの煌めきに共鳴し合うものを生み出すことを目指している。それは作家なりの、時代の根底で隠れて蠢いている感情とこれからのアクセサリーのあり方への問いでもある。趣味はアンティークやガラクタ蒐集。定期的に骨董市をまわり、自分のこころと周波数を似通わせたものを探している。

 

わたしが毎日眠るベッドの木枠の端っこには、小学生のときに貼り付けたちいさな水色のクロスのシールがちょこん、と残ったままでいます。眠りにつく前、灯りを消して真っ暗になると訪れる漠然とした不安からふっと思いついて出たその行動は、大真面目に適格と考えた解決策でもはたまた諦めからきたデタラメなものでもなく、今思えばひとりの少女に出来た精一杯の、ちいさな〈祈り〉のカタチであったような気がします。

祈りにおける真実について、このところよく考えるんです。小学生のわたしはとてつもなく人並で平凡でそれこそ特定の宗教なんて持っていませんでしたし(今もですが)、そのちいさな水色のクロスは確実な突破口をしめすものなんかじゃないってどこか分かっていた筈でした。何をどういう方法でどのように変えたら、どんな結果が訪れれば自分は安心し満足がいくのか?なんてコトは知る由もなく、でもそんな自身の願いや望みのクリアーな内容を知るのより前に、確かに、〈祈りのカタチは先行した〉んです。  

少し前に、淡水真珠でかたどられたクロスのパーツを使い、ワンペアの耳飾りを作りました。このパーツがこんもりと積まれた山を仕入れのお店で見つけたときに、わたしは軽く眩暈を覚えたんです、十字架という記号のもつエネルギーの凄まじさをその恐ろしい山盛りに改めて目撃したのもありますし、なによりひとつひとつの良く言えば個性豊かな、受けた印象のままにいうなら病みを纏ったような歪で崩れたフォルム・・・。しかしわたしは確信しました、「ああ、待ち望んでいたpieceに、やっと出会えたのね」と。わたしはその山のなかから耳飾りをつくるにふさわしいたった二つぶのpieceを探し当てるのに、笑われてしまいそうなくらいの沢山の時間を割きました。集中しすぎてお会計のあと、慌てて店員さんにお手洗いの場所を尋ねたのはお恥ずかしい記憶です。

選んだ二つぶはお写真をみても分かりますでしょう、特別フォルムの歪みが強く不格好な子で、惚けたようにほんのりとピンク色ががっています。後から他の作家様の淡水真珠のクロスを使用した作品に検索をかけたりしましたが、やっぱり皆様、歪みなどのない、綺麗な整ったカタチのものを選んで作品に取り入れられていらっしゃる。

MANAZASHI

しかしわたしにはこの一見不格好なふたつのpieceが、現代を生きる乙女たちの耳元にまさに相応しいものに思えてなりませんでした。わたしは内なる乙女心、というものが性別や年齢などのあらゆる限定を逃れて人々のなかに存在するものであると考えておりますが、彼・彼女たちはどうして、どういう動機で十字架の装身具に惹かれ、それを選び、纏うのか。もちろん、はっきりとした理由を持って身に纏う方もいらっしゃいますし、ファッションというフィールドにおける記号の役割について議論を始めたらキリがないのですが、おそらくほどんどの人は、この宗教的モティーフに対する憧れが一体どこからくるのか、自身でも理解できていないでしょう。でもその浅はかさは、嗤われるべきなのでしょうか?

あの、小さな十字架のシールのことがふっと思い出されます。何を信じているのか、何の方法を知っているのか、何を結果として望んでいるのか。

そういうものを宙ぶらりんにしたままで〈祈りのカタチ〉というものは、〈乙女の祈りのカタチ〉というものは先行し何処かへ向けられてしまっていて、わたしたちは見えないところへ手を合わせている。崩れた不格好なフォルムの淡水真珠のクロスは、そういう〈祈り〉の不確かさ、曖昧さ、ある種の病性・・・をまさに体現しているようで、その淡く柔らかなひかりの暗示するリアルにゾクッとさせられ、その危うさをどこかわたしはうつくしいと思ってしまいます。

この耳飾りには”vertige(フランス語で、眩暈)earring”という名を付けました。

届かなくたっていい、ブレブレだっていい。ある種のだらしない諦念に包まれたそんなベクトルをそもそも〈祈り〉なんて名で呼ぶことに憤慨したり、はたまたくだらないと馬鹿にする方もいるかもしれない。でも、わたしはその曖昧性こそがまさに、現代を生きる乙女たちの祈りのカタチのリアルであるように思えます。そしてこの耳飾りがしゃらり、しゃらりと揺れる姿にあの不安に包まれていた暗闇の記憶、何も分からずとも何処かに手を合わせていた少女の記憶をぼんやりと重ねます。何故でしょうね、それはとてもきれいで、奇妙なほどに愛おしいんです。

―――

第2回
→プラスチックビーズのシャンデリアーイヤリング

 

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ライター

廣瀬 結惟子
廣瀬 結惟子
慶應義塾大学文学部哲学専攻卒業。同大学院中退後、少女時代からの心の支えであったもの作りの展開を目指し、MANAZASHIとして活動を開始する。アンティークの蒐集が趣味。