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創作のルーツに向き合うとき|廣瀬結惟子のBedtime Stories【第3回】

MANAZASHI

前回のストーリーから読む
→【第1回】現代を生きる乙女の祈りと、淡水パールのいびつなクロス
→【第2回】プラスチックビーズのシャンデリアーイヤリング

MANAZASHI・廣瀬結惟子プロフィール

大学院での哲学研究を経て、2017年よりMANAZASHIとしてアクセサリー制作の活動を始める。「何者」にもなれない現代の乙女たちの煌めきに共鳴し合うものを生み出すことを目指している。それは作家なりの、時代の根底で隠れて蠢いている感情とこれからのアクセサリーのあり方への問いでもある。趣味はアンティークやガラクタ蒐集。定期的に骨董市をまわり、自分のこころと周波数を似通わせたものを探している。

ものづくりを始めたきっかけって、皆さんはどんなことでしたか?

その人の歩んできた道のりによってもその人の生を取り囲んできた環境によってもその人が出会ってきたあらゆる世界や存在物によっても、「ものをつくろう」という意識が芽を出した時の出来事の記憶って様々であるはずで、そしてそれは皆さんの現在の活動を隠れた根っこの部分で支えている基礎であり、日々の活動のエネルギーの源であり・・・。勿論全ての方に言えることではないのかもしれませんが、皆さんそれぞれの仕方でもって自身の制作の「ルーツ」と向き合い、対話をしてきたものと思われます。

わたしの場合はというと、大げさな言葉の響きを持ちつつも極めて陳腐で在り来たりな、「存在の証明」ってやつがスタートでした。高校二年生のときにとてもナチュラルなプロセスで、アイデンティティーの崩壊を経験しました。試験で良い点数を取ることも、友達を作って一緒にお喋りをしたりお弁当を食べたりすることも、当時わたしが抱えていた危機を解決するのに何の助けにもならず、結果適当な時間にふらふら学校に現れては保健室で時間をつぶし、適当な時間になると適当な理由を先生に提出してふらふら帰路につくという体たらく。

ある日そんなわたしを心配していた母が、ものづくりをする者たちの聖地、浅草橋へ連れて行ってくれました。今思うと当時そんな状態を抱えていた娘を例えば精神科に連れていくとかカウンセリングルームに連れていくとか、そういうことをせずにビーズの問屋街に連れていったというのは何だか面白い話です。でも自分と同じ血を分け合った人間が自身の存在の危機と向き合っているとき、彼女は何を欲し、何を必要としているのか・・・何となく感じ取っていたからこそ出た行動だったのだと思います。母もまたレース編みにお裁縫、刺繍にビーズ、あらゆるカタチの創作と共に生きてきた人間であって、〈表現すること〉のエネルギー源の真実に薄々気づいていた、そんな気がします。

ところで、わたしの展開しているmanazashiの作品のなかに、ひとつだけアクセサリーではないものがあります。この磔刑像やらパールやら動物の骨やらが集まった謎の物体は、実ははじめネックレスのトップとして製作をスタートさせたものの、詰め込み過ぎたというか肥大し過ぎたというか明らかにしっとり身体に収まるフォルムを逸脱してしまったので、悩んだ結果〈オーナメント〉という型式を与えました。

MANAZASHI

この磔刑像のパーツとの出会いは渋谷のとあるヴィンテージ・ショップで、実はもう手に入れてから6年くらい経っているんです。よく通ったものです、風俗店やホテルのネオンばかりが怪しく煌めく道玄坂を上って、暗い小径をくねくねと歩きまわり・・・看板もなにもない、ドアの前にポツンと立った一体のトルソーだけが目印のそのショップに。

手に入れたパーツはすぐにでもカタチにしたいわたしが何年もそれをそのままにしていたのは、きっと当時の自分と向き合うのが怖かったからだと思います。そして6年の歳月を経てようやくこの磔刑像を手に取ったのは、当時のあの〈喘ぎ〉へ今に繋がる生の煌めきとしての確かなカタチを与えたくなったからだとも。

わたしは歩んできた道のりの中で出会い、拾い集めてきたpieceたちをひとつずつ、ひとつずつ丁寧に繋げました。ベロアのおリボン、ピンク色のイミテーション・パール、動物の骨、アンティークのマザーオブパールのプレート、そして古い磔刑像。

販売を第一の目的とせず、ひたすら自分のために作業をしました。最もわたしが愚かしかったあの時代あの時に遺してきた、生きた軌跡と痕跡。やっとカタチを纏ったそれらはやはり不格好でどこかちぐはぐで。でもわたしは、かつてのものづくりの芽が顔を出した日のことを思い出していました。いつだって空振りだった世界への訴えを、惨めな彷徨を愛してやるために、自分を愛してやるために、初めてビーズを手に取ったっけ。存在の証明? なんて陳腐な響きだろう、もしかしたらそんなものはプロの動機じゃないって怒られちゃうかもしれない。けれどこれこそが、わたしの作ってきた煌めきの真実であって。

出来上がったオーナメントはベッドサイドに飾りました。ずっと愛してやれなかった記憶を大切に弔うためにこの子は生まれて、ずっと何処かにしまっていた〈ものづくりの芽生え〉が一瞬目を覚まし、再び深い眠りについてゆきました。

おやすみなさい、また、何時か何処かで。それはすぐに迷ってしまうわたしが立ち戻る故郷のようで、さようならは出来ないのです。

―――

第4回(最終回)
→世界観やテイストのカテゴライズを越えて

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ライター

廣瀬 結惟子
廣瀬 結惟子
慶應義塾大学文学部哲学専攻卒業。同大学院中退後、少女時代からの心の支えであったもの作りの展開を目指し、MANAZASHIとして活動を開始する。アンティークの蒐集が趣味。