旅をしながら活動している、ウィービング作家・講師のMaiさん。現在は東南アジアを活動拠点にしているMaiさんから、今回はマレーシアのテキスタイルについてのお話が届きました。ヨーロッパとアジアを繋ぐ場所として栄えたマレーシアのものづくりを、ちょっとのぞいていきませんか。
≫前回の記事『チェンマイで感じる、手仕事がすぐそばにある暮らし』
こんにちは。ウィービング作家のMaiです。
わたしは今、マレーシアを訪れています。ヨーロッパとアジアを繋ぐ中継地点として栄えたマレーシアは、様々な民族・宗教・文化が共存する美しい国です。
テキスタイルもインドネシアや中国、アラブ諸国など様々な文化を受け入れてきたことで、他にはないデザインが生まれました。
今回はそんなマレーシアのテキスタイルの魅力をお伝えできればと思います。
マレーシアの伝統的なテキスタイルとは
マレーシアにはさまざまな文化背景を持った人たちが共存しています。
マレー半島の西海岸はマラッカを中心に商業や交易で発展した歴史がある一方で、東海岸とボルネオ島では、タイやインドネシアの影響を受けながら芸術や手工芸の文化が発達しました。
テキスタイルは東部を中心に栄えたので、技術的にはインドネシアと重なるものが多いのですが、デザインは大きく異なっています。
では、具体的にどのような点がマレーシアテキスタイルの特徴なのでしょうか?代表的なポイントを、「染め」「織り」「刺繍」の3つにわけてお話します。
染めの手法『バティック』
『バティック』は、ジャワ島から伝わったロウケツ染めの一種です。日本では『ジャワ更紗』とも呼ばれています。(※ロウケツ染めはロウで布に模様を描いてから染めることで柄を作るという技術です。)
インドネシアとマレーシアで発達したバティックは、もともと使う人の身分や行事に合わせて柄や色が決められていました。時代とともにデザインと技術が応用されて、一般の人たちにも親しまれる生地として広まった歴史があります。
完成まで数ヶ月かかる手描きのバティックもあれば、今は機械で作られるものも。他にも、『チャップ』と呼ばれるこの写真ような銅板スタンプを使って型押しする方法や、シルクスクリーンでプリントしたものもあります。
マレーシアでは中国やイスラムの文化も織り交ぜられ、カラフルでファッション性の高いバティックが多くみられます。腰巻きサロンやスカーフ、雑貨など日常で使うアイテムとして生活に取り入れられています。
織りの手法『ソンケット』
ソンケットは、模様をつくる糸が浮いて見える『浮織物』の一種で、着物の帯のような厚手の生地が特徴です。
マレー語で「引っ掛ける」を意味する”sungkit”から名付けられたと言われていて、模様は植物や花、果物などマレーシアの自然をモチーフにしたものが多く、糸の間にきらきらと光る金糸や銀糸を通すことで模様が浮き立って見えます。
複雑な模様を手で織るには熟練の技術が必要で、もともとは王族や貴族のためだけに作られていました。今では正装用やインテリア用に作られるシルクのソンケットの他にモスクでの礼拝やちょっとしたお出かけ用に作られるコットンのソンケットもあり、マレー系の人を中心に一般の人たちにも身につけられています。
刺繍の手法『テカット』
マレー語で「刺繍」を意味するテカットは、マレーシアの伝統手芸です。
金糸が浮き上がったような刺繍が特徴で、ベースとなる生地はワインレッドや紺、深緑などのベルベットが使われることが多く、高級感があります。
テカットは王族の衣服や宮殿のデコレーションとして使われていましたが、その後、マラッカに移り住んだ中国系の人々の間に広まっていきました。中国系の人が作るテカットは動物やドラゴンがモチーフになっていて、マレー系の人が作るテカットはイスラム文化の影響から、植物や幾何学模様を使ったデザインが多くなっています。最近はハイビスカスやひまわりといった馴染みのある花がデザインに使われることも多くなっています。
クアラルンプールでマレーシアの布の歴史に触れる
マレーシアのテキスタイルに多様なデザインが生まれたことは、民族や宗教が違っていてもお互いを受け入れて尊重し合うというマレーシアの文化があったからこそだと思います。
マレーシアの首都クアラルンプールには、マレーシアのテキスタイル文化と歴史が学べる『国立テキスタイル博物館』があります。クアラルンプールの観光名所ムルデカスクエアの目の前にあるので、マレーシアの布やテキスタイルに興味のある方はぜひ足を運んでみてくださいね。
写真撮影:Textile file Mai