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人の好奇心を後押しして日常を変えるものづくり|tokyobike(株式会社トーキョーバイク)金井一郎さん

「谷根千」と呼ばれ国内外の人に親しまれる、東京の谷中・根津・千駄木エリア。東京にまだこんな場所があったなんて、と思わせるようなゆったりとした時間の流れるこの街に、江戸時代から酒屋さんとして使われてきた木造日本家屋があります。そして今、その酒屋さんの目印である杉玉のすぐ隣には”Tokyobike Rentals”の文字が入った看板が。

国内のみならず海外でも多くのファンを持つ自転車トーキョーバイクのコンセプトショップであるこの店舗では、お店の名の通り自転車のレンタルを行っていることはもちろん、店内にはお菓子や食器、雑貨や日用品が並び、またバーカウンターでは美味しいコーヒーやお酒を楽しむこともできます。イベントやワークショップが開催されることもあり、店舗は毎日様々な場所から来るお客さんで賑わいます。

元々は自転車ブランドとして始まったはずのトーキョーバイクが、一見、自転車とは繋がりのないようにも思えるこうしたお店作りを行っていることには、どんな理由と想いがあるのでしょうか。金井一郎社長にお話を伺いました。

金井一郎さんプロフィール

株式会社トーキョーバイク代表取締役。大学卒業後、オートバイの会社に就職。その後、オートバイ・車のパーツ輸入商社や、マニア向けパーツのオンラインショップ経営、自転車関連企業の広告やWebサイト制作の仕事を経験し、トーキョーバイクを立ち上げる。”TOKYO SLOW”をコンセプトに作られる街走り用の自転車は、日本国内のみならず海外でも高い評価を受けている。

インタビュー・編集:瀬戸愛佳(Craftie)

トーキョーバイクという名前から膨らんでいったアイデア

——自転車で知られているトーキョーバイクですが、金井社長は元々バイクがお好きだったと伺いました。

金井はい、学生時代にオートバイが好きだったので、オートバイの会社で働きたいなと思い就職しました。その時、周りにいた先輩たちが自分でオートバイや車関係のパーツ輸入商社を作ったり、自転車関係の仕事を始めたりしているのを見て、「自分も自転車だったら何かできるんじゃないか」と思い独立したんです。

——そこから事業は順調に大きくなったのですか?

金井いえ、最初は順調とは言えませんでした。独立した当初は、自転車のマニア向けのパーツのネットショップをやろうと考えていましたが、それだけでは厳しいので、他にも自転車関係の会社のホームページを作ったり、自転車雑誌向けの広告を作ったりもしていました。

そのネットショップのドメインをつける時に何にしようかと考えていて、ふと浮かんだ名前が「トーキョーバイク」だったんです。トーキョーバイクという名前の自転車があったらいいな、と思いついて、自分で自転車を作ることにしました。

——気に入った名前が先にあって、それをもとにアイデアが膨らんでいったんですね。

金井そうですね。自転車業界というのは、自転車オタクの人たちが動かしている業界だったんです。道を速く走れるロードレーサー用バイク、とか、山を速く走れるマウンテンバイク、とか。でも、そういう自転車ではなく、普通の人が街を気持ちよく走るための自転車というのは誰も作っていませんでした。世界中探してもほとんどなく、自分や周りの人が「良いな」と思って使えるであろうものが、ちょうどぽっかり空いていたんですね。当然、速く走るロードレーサーバイクやマウンテンバイクはその世界の「正解」を知っている人だから作れるわけですが、そういった自転車好きの人たちは、街のことはあまり知らなったわけです。

道具ではなく、街をすいすい走る「おもちゃ」としての自転車

——なるほど。だからトーキョーバイクは街を快適に走るための自転車というポジションに立とうと。

金井はい、みんなが乗っていた単なる乗り物としてのママチャリとも違う。その中間ですね。だからこういうものは道具というよりもある意味「おもちゃ」です。それが生活に入ってくると、きっと何か変わるんじゃないかと。

僕は東京生まれなんですが、子どもの頃、自転車に乗ってどんどん家から遠いところに行くのはどきどきしたことをよく覚えています。中学や高校に入ると電車やバスで通学するようにり、自転車に乗る機会も減っていたんですが、ある時ふと、また自転車でどこかへ行ってみようと思い立ったんですね。そこで、当時住んでいた川崎の登戸から渋谷に向かってみると、1時間もかからないくらいで行けてしまった。電車で行くような遠い距離と思っていた場所が、実は自転車で行けるんだということに驚きました。それからは時々自転車で出かけるようになったんですが、電車を乗り継いでいくよりも、最短距離を自転車で行くほうが速いなと。

——その感覚って、ほとんどの人は持っていないと思います。

金井例えば山手線の内側の新宿からお茶の水や神田あたりまで10kmなんですが、普通の速さでのんびり走っても50分もあれば行けます。東京ならどこに行くにも近いっていう感覚が持てますよね。今はみんなジムのバイクで運動してるけど、それだったら外を走る方が気持ちがいいよねとも思います。

——東京を気持ちよく走る自転車を作るためには、具体的にはどういうところがポイントになるんでしょうか?

金井信号と坂道が多い東京なので、漕ぎ出しが軽く、上り坂もすいすいと行けるように設計しています。ポジションも大切で、レーサーみたいに前傾しすぎてても、ママチャリみたいにゆったりしてても走りにくいので、スポーティだけど走りやすい角度になるよう工夫しています。

——東京を自転車で走るって、どんな感覚なんでしょう・・・?

金井よかったら、ちょっと乗ってみましょう。ヒールでも大丈夫ですよ。

——本当ですか?乗ってみたいです!

谷中の街へサイクリングに出かけることに


Tokyobike Rentals Yanakaでレンタルできる自転車

お店を出て、金井社長のガイドのもと谷中のショートサイクリングへ。漕ぎ出した瞬間からすっと加速していき、10月の風が心地よく顔に当たります。くねくねとした道でもスムーズに曲がることができて、なるほど、これは軽快です。それに、いつもよりほんの少し視界が広くなったような、紅葉した木々が揺れているのがすぐ近くに感じられるような、そんな気がしました。

——これは通勤などにも良いかもしれませんね。とってもスムーズでした。

金井10kmくらいまでだったらできると思います。5kmだったら、どう考えてもどんな乗り物よりもいい。通勤って満員電車に揺られてつらいイメージがあるけど、自転車に乗ると見えてくるものが変わります。季節を感じますよね。寄り道して帰ることもまた楽しいですし。本当に、生活の根本を変えてしまうくらい、都会に住む人にとっては革命的なものだと思っています。

生活の中で「新しい刺激」を求める人に乗ってもらいたい

——トーキョーバイクのファンには、どんな人が多いのでしょうか?

金井最初に作った時から、女性にこそ乗ってもらいたいなと思っていました。例えばおいしいものを新しく探して食べに行ったりと、毎日の暮らしの中で新しい刺激と出会うことで、生活を豊かに送りたいという気持ち。女性にはそういう心の余裕があるなと感じていました。そういう人が使ったら、自転車ってものすごくいい道具になりますから。

——たしかに女性と男性では、使い道は少し違うかもしれませんね。生活スタイルも興味も違いますし。

金井全然違いますね。当時は自転車、特にスポーツバイクというと男の子のもので、お客さんは99%男性でした。トーキョーバイクが最初の自転車(スポーツバイクと街走りの中間のようなモデル)を出した時に、女性のお客さんは10%くらいだったんですが、女性10%はすごく多いと言われました。今は女性のお客様が50%を越えています。

——今は女性の方が多いんですね!

金井やっと、そうなってきてます。休みの日などに街で楽しく過ごすための道具として使われる人が多いです。ちょっと遠くに出かけていって、お気に入りのお店が見つかったりしたらすごく楽しいじゃないですか。自分で行先を自由に決めて、途中で気分が変わったら違う方向に行ったりしながら、そうして自分の力で見つけられることが増えるというのは大きいと思います。

——車を持たない若い人にも良さそうですよね。自転車なら車で行けない細い道や入り組んだ場所にも行けますし。

金井そういう道にこそ行ってほしい。たとえば毎日通勤先が同じでも、日によって違う道を通ればきっと新しい発見があると思います。

どんな人が乗っているかを想像しながらデザインする

——サドルやボディのカラーバリエーションも、すごくスタイリッシュだと思いました。

金井やっぱりトーキョーバイクと名乗るからには、単なる道具ではなく、服や持ち物と一緒で、乗ってる自転車と一緒に写真を撮ったり、自分が気に入った色の自転車に乗っている姿を想像したり、そういうことがものすごく大切だと思ってるんですね。

色は塗料メーカーが作ったチャートの中から選ぶのが当たり前だったんですが、妙に鮮やかだったりして「いや、この中からは選べないな・・・」と思うような色ばかりで。自転車ってみんな男っぽくて、ロゴがガツンと入っていたり原色のことも多かったですが、僕はヨーロッパの車とかもすごく好きだったので、中間色でそういう雰囲気のものを作りたいと思ってたので、工場で色を作ってもらうようになりました。

——新しいモデルなども出されてますが、どんな時に新商品を作ろうと思われるのですか?

金井トーキョーバイクを好きになってくれそうなお客さんを想像しながら、「こういう使い方もあるんじゃないかな?」と思った時に増やしています。100人中80人のためのものではなくて、具体的に「こういうお客さん」っていう想像はして作っています。好奇心があって、街を楽しみたいと思っている人。型にはまっていないタイプの人かもしれませんね。もしくは、枠を飛び出したいと思っている人とか。

すごくわかりやすく言うと、最初は、Appleのユーザーと、当時J-WAVEを聴いている人を想像していました。

——J-WAVEを聴いている人、ですか?

金井なんというか、外国のこともよく知っていたりとか、映画や食が好きだったり、アートやデザインまで、いろんなことに興味があるような人ですね。ニッチかもしれないけど、都会ではそういう知的好奇心が旺盛な人がそれなりにいるなと。あと、自分自身がそこに近かったから、というのもあります。

作っているのは、ものの先にある楽しい経験や暮らし

金井ある時気付いたのは、トーキョーバイクっていうのはモノを売ってはいるんだけど、その先にある楽しい経験を作っているんだということです。朝ここに来てコーヒーを飲んだ人が、自転車で出かけて行って、帰ってきたら今度はお酒を飲んだりして。この場所は300年前、江戸時代から酒屋さんだったところなんですが、代々その酒屋さんをされてる大家さんが初めて人に貸してくれた建物なんです。お侍さんもお酒を飲んでいたかもしれない場所で、お酒を飲むという体験だったり、その場でお土産も選ぶことが出来たり。旅した人が、そういうことを全部経験できるような、そんな場所にしようと思っています。


セレクトされたお土産や自転車関連グッズ、オリジナルバッグ等が並ぶ店内

——楽しい体験をトータルでデザインされているということなんですね。自転車はその中の一部であると。

金井自転車ではなくて、その人の一日がメインですからね。その人の暮らしの中の一部であればいいなと。僕はやっぱり自転車以外のことをいっぱいやりたくてしょうがないんですね。自転車を売るだけのお店だと自転車買う人しか来てくれないし、それだけではトーキョーバイクというブランドはトーキョーバイクが目指す姿になれないですから。おみやげも、カフェも、最初からやりたくて。

——おみやげのセレクトにはどういったこだわりがあるのでしょうか。

金井どこかで共感するようなところがある人やブランドのものが多いですね。トーキョーバイクの提供するものって、暮らし方や生き方に行きつくんだろうなと思っていますが、同じような思いで物事をやっている人とは規模の大小や場所に関わらず近さを感じるから、自然に繋がっていく感覚があります。ここに置いてある商品はだいたいそういった人たちが作っているものです。

——イベントやワークショップなどを数多く開催されていることも、「体験を作る」「生活や暮らしを作る」ことの一部なんですね。

金井そうですね。あとは、もちろんスタッフが楽しいと思うからやっているというのもありますね。いろんな人が各店舗で企画していて、それぞれのお店に、それぞれのコミュニティがあります。例えば高円寺店は近隣のパン屋さんと組んでパンMAPというのを作ったり。おいしいパン屋さんとトーキョーバイクは近いものがあると思います。お店の方も「いいお客さんが来てくれた」と喜んでくれたりして、良い循環が作られていますね。

肩の力を抜いて、自分の生活を楽しんでいいと思う

——トーキョーバイクのような場所は、提供しているものやことを媒介にして、同じ趣味や価値観を持つ人が集まる場所にもなりえるのかなと思いました。

金井そういったコミュニティ作りには興味がありますね。やっぱり場所を作るって一番素敵なことだと思っています。ここのお店にも色んな人が来てくれて、地元の人が犬の散歩ついでにちょっと寄ってくれたり、色んな国の人が遊びに来て楽しそうにお茶していったり。そういう人たちが自然に集まるような場所を作りたいですね。「あそこに行けばいつも誰かいるな」というような場所は僕自身も大好きなので。


金井社長とスタッフの皆さん

金井僕らは、一時的にこの場所を借りている、長い歴史の中のほんの一部です。今までのこの場所と全然違うものを作ろうとはしていなくて、トーキョーバイクらしいやり方をしつつも、街の人たちが、ここが残って良かったねと思ってくれたらいいですね。

この谷中は昔から寺町なんですが、昔、夏目漱石や森鴎外が住んでいたような場所で、芸術家も多く、今も自分らしくおもしろい生き方をしている人がたくさんいるんです。そういう人たちが暮らしているのを見て、もっと肩の力を抜いて、狭い考えから解き放たれて、自分の生活を楽しんでいいんだと思うようになりました。カフェや洋服屋さんなど自分でお店をやっている女性も多くて、皆いきいきとしていますよ。

——今後新しく試したいこと、チャレンジしたいことはありますか?

金井既に始まってはいますが、ホテルに自転車を置いてもらってレンタルをすることです。旅している人たちが泊まった時に自転車がある状態を作って、色んな場所を探検できるように。そのために、ツアー企画などもどんどんやっていこうかなと思っています。

「旅人は住む人のように、住む人は旅人のように」という言葉はトーキョーバイクをよく表しています。僕らが言う旅というのは、観光地を見に行くことだけじゃなくて、ちゃんとその場所を感じることです。その街に住んでいる人がおいしいと言うお店に行き、一緒に飲んだり食べたりして地元の人と交わったりしていると、別に有名な街じゃないのにその街が好きになっちゃったりしますよね。色々な場所を旅してきて、そういうことが何より楽しいと思うんです。

旅人が、地元の人がぷらぷらするように自転車で出かけること。住む人が、少し足をのばすことで何でもない一日が旅になるということ。その両方を実現できると思っているので、トーキョーバイクを使う人たちがそういう風に感じてくれたらいいですね。

——金井社長、素敵なお話をありがとうございました!

Tokyobike Rentals Yanaka

場所:東京都台東区谷中4-2-39
営業時間:10:00 – 19:00
定休日:火曜日 ※祝日営業

レンタルバイクのご利用方法

Tokyobike Rentals Yanakaが提案する、素敵なお店やスポットを集めた東京のシティガイドはこちら

≪新モデル発売のお知らせ≫
2歳から乗れるオリジナルキックバイク「tokyobike paddle」が11/30(金)に発売!子どもたちが楽しく走り回れて大人も笑顔になる、トーキョーバイクの幼児用自転車同様の安全基準で製作したモデル。12/12(水)~12/18(火)の期間中、伊勢丹新宿店本館6階ベビー&キッズフロアで開催されるLittle Christmas Marketにて、展開する全6色を実際にご覧頂けます。

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ライター

Craftie Style編集部
Craftie Style編集部
アート・クラフト・ものづくりを通して、日々の暮らしの楽しさ、彩り、新たなコミュニティを生み出すこと。そのきっかけを作るためのコンテンツをお届けします。