ニットバッグ作りに込めた、新時代を生きるすべての女性へ届けたいメッセージ|Beyond the reef(ビヨンドザリーフ)楠 佳英さん

ふわふわの毛糸を編み棒に掛けて、暖炉の前でホットチョコレートを飲みながら(あるいはコタツに入ってお茶を飲みながら)ゆっくり時間を掛けて手を進める———「編み物」と言うと、そんなおばあちゃんの姿が思い浮かぶ人もいるかもしれません。

そのおばあちゃんの編み物が「クラシック」だとすれば、そこに詰まった美しさの要素を現代人の視点で再解釈し、次世代へ受け継がれるよう生まれ変わらせ、それをきっかけに新たな役割をも与えつつある楠さんは「革新的」なデザイナーでもあり、どこまでも「未来志向」のプロデューサーのようでもあります。

そんな楠さんがBeyond the reef(ビヨンドザリーフ)のものづくりにどんな想いを込められているのか、お話を伺いました。

楠佳英さんプロフィール

ファッション雑誌のライター・編集者としてのキャリアを経て、2014年に義母・義妹とともに手編みのバッグブランドBeyond the reef(ビヨンドザリーフ)を立ち上げ、代表取締役兼デザイナーを務める。高齢女性や主婦たちとともに、今の時代を捉えたファッショナブルなハンドメイドニットバッグの製作・販売に取り組みながら女性の雇用促進を目指す。2018年7月、日吉に店舗兼アトリエをオープン予定。

インタビュー・編集:瀬戸愛佳(Craftie)

——今日お持ちのバッグ、素敵ですね!

ありがとうございます。これも全部手編みなんですよ。

——Beyond the reefのバッグは綺麗な海辺を想わせる白や紺のイメージもありますが、ブラックもまたシックですごく良いですね。

——楠さん、以前はファッションライターのお仕事をなさっていたんですよね?

はい、今もライターの仕事はしています。ずっと編集とライターをやっていたんですが、Beyond the reefが忙しくなってきたので少しずつ減らしていって、今はJJという雑誌で月に1本だけファッションページの連載をやっています。

——なんと、Beyond the reefの経営を担いつつライターも続けていらっしゃるんですね。

両方やっていることで気分を切り替えることが出来るんですよね。明日も撮影があるんですが、現場に行くと新しい服もたくさん見られるし、今のファッショントレンドもわかります。

——それは今のバッグ作りに活かせるメリットも多そうですね。ファッション雑誌の仕事に就こうと思われたのはどうしてですか?

最初の2年くらいはOLとして不満なく仕事をしていたんですが、その頃テレビでモーニング娘。のオーディション番組をやっていて。自分がやりたいことを必死でやってオーディションに勝ち残って、一生懸命歌っている女の子たちの姿を見て「私はこのままでいいのかな?自分のやりたいことって何だろう?」と思ったんです。

その時に気付いたのが、子どもの時からファッション雑誌が好きだということ。ファッション誌の、あの紙をめくる時のわくわくする感じとか、毎月新しい提案があって、夢があって、一冊の中にいろんな人の想いが詰まっている感じ。特に「オリーブ」っていう雑誌が大好きな「オリーブ少女」だったの。

——わぁ、そうだったのですね!オリーブがある青春時代・・・私の憧れです。

オリーブは、神のような存在ですよ。その時スタイリストさんたちがファッションについて対談していた記事の一言一句をよく覚えていて、「ファッションについて語る仕事が出来たら最高だな」と思って、転職して出版社に入りました。そこでは毎日お洋服に囲まれて仕事をして、大変だけど楽しくて、気付いたら17年という感じでした。

——ではBeyond the reefを立ち上げられた時も、雑誌のお仕事をしながら?

2014年の7月に最初は個人事業主として始めたんですが、まだ編集の仕事もバリバリやっていました。

姑の編み物を見て「こういう美しさに価値を見出す時代になる」と思った

——ブランドを始めることにしたのは、どんなことがきっかけだったのですか?

その頃はファッションのトレンドのサイクルが異常に速くなってきて、服の値段も下がり、ユニークさや個性がだんだんなくなってきたなと感じていて。

——ファストファッションブランドのお店もどんどん出来ましたよね。

そうそう。ファストファッションは一長一短で、サステナビリティの面やフェアトレードの面でもたくさん問題はあるけど、一方では企業努力の一環でもあるんですよね。彼らのおかげでファッションに興味を持って、手に届く価格で服が買えて、おしゃれを楽しむことができる若者もいっぱいいると思うから。

ただ、毎月大量の服が編集部に集まってきて、先月見た服がもう次の月には古くなるというスピードで、私自身も断捨離がすごかったんです。服を買っては捨て、買っては捨てという感じで、3カ月に1回はごみ袋十数個分を捨てる、という生活になっていて。

——たしかにすごい量ですね。

そこに疑問を感じるようになった頃、私の姑が、子どもたちも独立してベッドタウンに一人暮らしになったんです。時間を持て余した姑は一日中編み物をしていて、最初は小さなコースターだったのが、だんだんテーブルクロスのような大きな作品になっていって。そうして膨大な時間と手間が掛かった作品が出来上がるのを見た時、「これって私が雑誌の仕事で見ているものとは対極にあるけど、すごく素敵だな。これからはこういうものに美しさを感じて、価値を見出すような時代になっていくんじゃないかな」と感じました。姑たちの世代の女性が持っている技術と、私が仕事で培った時代のニーズを読む力をドッキングさせれば、良いものが出来るんじゃないかなと思ったのが最初のきっかけです。

姑にも、もう一度社会や人と繋がる喜びを感じてもらいたい

同時に、姑にも社会との繋がりを持つことで生きがいを感じてもらえたらいいな、という想いがありました。今は70代だって元気な人が多いですよね。やがて来る死を待つように余生を過ごすのではなく、人と関わることを楽しんでもらった方がいいし、これからの超高齢化社会はいくつになっても社会の一員として稼いで税金を納められるようになれば最高ですよね。

——次の時代の価値観までも見据えていらっしゃったんですね。Beyond the reefでは高齢の方もたくさん活躍されていて、一度社会から離れてしまった方々に再びスポットライトが当たる仕組みも素晴らしいなと思います。

技術と時間を持て余してしまっている高齢者の方がいるなら、社会としても活躍してもらった方がいいし、本人たちの幸せにも繋がったらいいし、かつ、売れるものが作れればもっといい。そういう発想がまずありました。

作り手もお客さんも、みんながいつでも集まっておしゃべり出来るような場を

——スタート当初からオンラインで手編みのバッグを販売されていて、この7月にはついに実店舗もオープンとのことで楽しみです。お店のコンセプトは?

店舗と倉庫、そしてアトリエを併設した3階建ての店舗を横浜の日吉にオープンします。作りたいのは、地域に根付いた人と人が繋がる「場」。私たちの商品の良さって、作った人の気配なんですよね。バッグにはこんな風にカードが入っていて、作った人の名前が手書きで書いてあります。


バッグに添えられる手書きのカード

——本当だ!編み手さんと、縫い手さん。

そう、二人で仕上げます。

——野菜もそうですが、作った人が見えるっていうのは安心感があるのはもちろん、何より「誰かが作ったものを受け取っている」というあたたかさを感じますね。

こうすることで作り手にはより緊張感が生まれるし、お客様にはぬくもりが伝わるといいなと思っています。店舗では、作り手である彼女たちが見えて、触れあえて、繋がれた方がコミュニティとしてより魅力的だし、そんな場所があれば地域も盛り上がります。別に商品を買わなくても、おばあちゃんやお母さんたちがいつでも来ておしゃべり出来る場所があったら、ハッピーですよね。

——まさに場づくりのための店舗オープンなんですね。

そうなんです。おばあちゃんたちが編み物を教えるワークショップも人気なので、そういう活動の拠点にもしていきたいなと。

ありふれたものでも、組み合わせを変えると新しい価値が生まれる

——ところで、Beyond the reefのブランド名の由来が気になっていたんです。

「珊瑚礁の彼方」という意味なんですが、私は海が好きなのでバッグには貝やヒトデなど海のモチーフを多く使っているんですね。


全てオリジナルで作られている、海をモチーフにしたコンチョ

そして、バッグの素材は毛糸です。毛糸×シェル×カゴバッグという組み合わせなので、夏のものでもあり、冬のものでもある。海のものであるけど、街のものでもある。シェルも毛糸も単体では新しいものではないけど、組み合わせを変えてミックスすることによって新しい価値が生まれます。海でも街でも、夏でも冬でも自由に持てる。そこには「固定観念に縛られないで」というメッセージを込めていて、そんな想いが珊瑚礁の彼方までずっと続きますように、という意味でつけた名前です。

——すごく素敵なメッセージ!

付属品も作っているので、冬はファーを取り付けて、夏には外したりね。こうして四季を通じて使って頂けるように工夫してます。

1つのカテゴリに縛られなくていい。人はいろんな面を持っていていい

——「海と都会をこよなく愛する女子に」とも掲げていらっしゃいますよね。

はい、女性の生き方って本当に多様になってきているから、自分のカテゴリを1つに決める必要はないんですよね。例えば私も、平日は都会で働いていて土日はずっと海で過ごしているように。人間ってそういう風に色んな面があっていいと思うんです。「わたしは〇〇系、あなたは〇〇系」と自分を一つの場所に縛らなくていい。海も好きだし都会も好き、夏も好きだし冬も好き、それでいい。色んな人がいて、色んなライフスタイルがあって、いろんな考え方があってOKということです。

——すごく懐が深いコンセプトだったんですね。

ファッション業界では春夏があって秋冬があってセールもあるけど、本当は、夏も冬も違和感なく持てるならその方がエコで良い。季節にとらわれすぎるのも日本特有かなと思うし、もっとみんな自分のしたい恰好が出来るようになったらいいなと思いますね。相手への礼儀さえ欠かなければ、自分の「好き」を貫いてもいいんじゃないかな、という意味も込めています。

「ファッショナブルであること」へのこだわり

——編み物というと、やっぱり一般的にはおばあちゃんが自分の趣味や孫のために作るものというイメージもあるのかなと思っているんですが、そういう「編み物」からは最も遠いような年齢の女性たちがBeyond the reefのファンだったりして、そこにちゃんと届いているというのが、すごくいいなぁと思いました。

30~40代の大人の女性が支持してくださっている理由は大事なところで、私やファッションスタイリストというまったく編み物が出来ない人たちが今のトレンドを見て「こういうのが素敵じゃない?」と思うものをデザインしているので、例えば「この編み方はすごく高度な技術だから良い」というような編み物する人目線の考え方にはならないんです。そうやってファッショナブルなものを作ることを大切にしているから、ファッション誌にも掲載して頂けて、若い人にも受け入れられるのかなぁと思います。従来の編み物ももちろん素晴らしくて決して否定するつもりはないけれど、私たちがやることの価値は、それをファッショナブルに作って新たな人々に届けることだと思っています。

最近は編み物や手芸をなさる方、まさにCraftieのユーザーのような方たちがSNSから見つけて買って下さるようにもなりましたね。

——編み物の大変さとか、どれだけ綺麗に丁寧に作られているかとか、そういうことがわかるからこそ買い求めているのかもしれませんね。

そうだと嬉しいですね。あと、編み物をなさるお客様から聞いたことなんですが、編み物って、製図がついている本を見ながらやることが多いですよね。その本の通りに作るとやっぱり形が古いそうで。その点、Beyond the reefのデザインは編み物界において衝撃的らしく、そこに驚かれて反応して下さっているみたいです。

——そのデザインは、どんなことを考えながら作っていらっしゃるのですか?

要素は2つあって、1つは機能面。お客様から頂いたフィードバックから「こういうのがあったらいいな」「ここは困ってる」といった声をすくい上げます。全商品においてメッセージカードが戻せるようになっているんですよ。

もう1つは見た目の美しさで、私たちが毎月撮影をしたり展示会に行ったりする中で「いいな」と思う感覚。その2つを考えて組み合わせながら作ります。

——商品ラインナップを見ていると、バッグのデザイン数の多さに驚きます。「ニットバッグ」と一言では片付けられないくらい、ものすごくバリエーションが豊かで、見ていてとても楽しいんですよね。

ものを大切にしてほしいという想い

手編みのバッグが好きな方って、例えば通勤用の丈夫なレザーバッグと違って、ハートウォーミングな感じとか、わくわくする気持ち、そういうのを求めているのかなと思うので、それはデザインする時に大切にしています。でも、そうはいっても丈夫ですよ!ほつれたりしたことは4年間で1度もなくて、万が一ほつれても修理は一生無償です。カードに名前が書いてある編み手・縫い手がいる限りはその人がずっと担当します。送ってもらえれば毛玉も取りますし、引っ掛けた部分などがあれば解いて編み直しもします。

——アフターサービスがあまりに手厚くて、それを考えるとこのお値段で良いのか心配になってしまいます・・・

そうなんですよ。ものを大切にしてほしいという想いがあるので。そんなに安くない値段に思われることもありますが、本当はそういうサービスが続けられるように、もう少し単価を上げていきたいなというところです。

——オーダーしてから、編んで頂けるシステムなんですよね。

はい、だいたい受注してから1か月後にお届けになります。それまでに全部で4回の検品があるんですが、その検品で3割ほどは落ちちゃうんです。

——厳しいですね。

厳しいです。落ちたものはやり直しになるので、商品をお届けできないということがないよう受注量は調節しています。とはいえ、今安定した生産が間に合っておらず、編み手さんを絶賛募集中です。商品が編めるようになるまでは相当研修に時間がかかるので、少しずつ増強していくことになりますが。

何歳であっても「自分には可能性がある」ということを知ってほしい

——高齢者の方以外の編み手さん・縫い手さんもいらっしゃるんですか?

はい、今は主婦の方も多いです。子育てや家事の間に少しずつある隙間時間を利用して社会参加できれば、心の自立に繋がるんじゃないかと思います。40~50代の、子育てが落ち着いてきた頃の方も多いですね。

——Beyond the reefは、おばあちゃんもお母さんも、一度家庭に入った女性がまた社会で活躍する場所、という意味では同じなんですね。

そうなんです。今はグループLINEと、Skype、Facetimeを使えば何でもできますから通勤してもらう必要もなくて、在宅ワークが基本です。週に1度の集まりで検収や検品をします。

——編み手としてお仕事を始められた方が、どういう風に変化していくのかも気になります。

おばあちゃんたちは目に見えて元気になりますね。みんな70代超えていますが、戦争を経験している世代の人たちなので青春がなかったんですって。日本が貧しかった時代で、今のように便利な家電もないから、家では掃除も洗濯も育児も炊事も全部自分でやってきた、そんな働き者の人たちだから「役に立ちたい」っていう気持ちをすごく感じるんです。

商品を作ったり、ワークショップで教えたりすることで「自分がまだ役に立てる」という自己肯定感が生まれていくからとっても元気だし、編み物仲間みんなで遊びに行ったり、ランチに行ったり、勉強会を開いたり、羽生くんの追っかけをしたりしていますね。

——すごい、新しいコミュニティが出来ていますね!

良いですよね。元気になってくれてこちらもありがたいですし、どんどん遊んでほしいです。おばあちゃんはお店番や百貨店での販売もしていますが、結構人気者ですよ。コミュニケーション能力もすごく高いです。だから見習うこともいっぱいあるし、癒されます。

アトリエにはおばあちゃんもお母さんも子どもも来るので3世代揃うんですが、そうするとおばあちゃんたちが面倒見てくれたりして、「昔の日本の子育てはきっとあんな感じだったんだろうな」と思います。サザエさんみたいに、異なる世代が交流するコミュニティは大事ですね。

——そういう風に働ける会社って珍しいと思うのですが、Beyond the reefがモデルとなって色んな会社が続いていったらいいですよね。

そういう風に変わっていかないといけないと思うし、そういう活動をする人がもっと出てきて欲しいと思います。高齢者の話って介護や社会福祉に課題が山積みだからどうしてもネガティブに語られるじゃないですか。でもこれからは高齢者の方たちも自らの可能性を見出せることを知ってもらえれば、できることはたくさんあります。だからBeyond the reefの活動を色んな人に知ってもらいたいですね。

一度社会から離れた女性が、好きなことでまた活躍できる仕組みを作りたい

——今後Beyond the reefをこんなブランドにしていきたい、という夢はありますか?

Beyond the reefは一ファッションブランドであり、社会課題の解決の活動でもあるという、社会性とブランド性という2つの面があります。どちらも大切で、ファッションブランドとして勝負しながらも、社会の課題を解決するブランドでありたい。

私たちの目的は、もう一度社会に参加することが難しい主婦や高齢者たちが、年齢等にとらわれず、いくつになっても好きなことを仕事にできる社会の仕組みを作ることです。雇用を増やすためにも事業は大きくしていきたいなと思っていますし、この秋からは越境ECにもトライするので、サイトも多言語対応できるようにしています。

それから、拠点を全国に作りたいです。女性や高齢者が持つ技術で新しい価値を生み出すメソッドが完成すれば、場所を問わずどこでも応用できます。それが各地で雇用を生み出せるなら、バッグブランド事業でなくてもいいんです。そうしてまずは日本全国に埋もれている「本当は価値あること」でいろんな事業を展開して、同時にファッションブランドとしても圧倒的なブランドにし、それが整ったら海外に出ていきたいです。

——展開するのは商品じゃなくて、Beyond the reefのスピリットとメソッドということなんですね。今回の越境ECでもBeyond the reefを知る人が世界中で増えて、その考え方が色んな場所で広がっていくといいなと思います。

そうですね。メイドインジャパンにこだわるつもりはないです。日本に限らず、途上国でもどこでも、雇用って一番の社会貢献だと思うんですよね。このブランドをやることによって救える人がいるなら救うことも大事だし、Beyond the reefの商品を純粋に楽しんでくれるお客様がいてくれることも、両方大事ですね。

——楠さん、本日はありがとうございました!

Beyond the reef(ビヨンドザリーフ)Official Website

店舗オープンのお知らせ

Beyond the reefのショップ兼アトリエが2018年7月29日(日)12時よりオープンします!

アクセス:横浜市港北区日吉本町1−24−8 (日吉駅より徒歩2分)

営業時間: 水、木、金、土、日 11:00~18:00

定休日: 月、火

ライター

Craftie Style編集部
Craftie Style編集部
アート・クラフト・ものづくりを通して、日々の暮らしの楽しさ、彩り、新たなコミュニティを生み出すこと。そのきっかけを作るためのコンテンツをお届けします。