自然の植物や野菜などを使って生地を染める「草木染め」。日本では古くから草木染めが行われており、化学染料が普及した今もなお、伝統的な染色技法として親しまれています。
そんな草木染めは、自然ならではのやさしい風合いを楽しめるのが魅力。色落ちさえ楽しむことができるので、使うほどに愛着が深まります。
そこで今回は、草木染めの基礎知識をはじめ、おすすめの材料や草木染めの手順などをまとめました。自宅にある草木や野菜を使って、染め物を楽しんでみてはいかがでしょうか。
草木染めとは
草木染めとは、植物や土、野菜、果実などを原料とした染色技法のこと。日本では縄文時代から行われてきたとされており、現在でも伝統ある技法として親しまれています。
染め物と聞くと少し複雑なイメージがありますが、身の回りにある原料を使用する草木染めは、私たちの暮らしにとって身近な存在でもあります。自分の手で生地や布を染めていく時間でさえも、とても有意義に感じられるはずです。
草木染めの魅力
環境にやさしい材料で染色
草木染めでは、自然の植物を利用するため環境に優しいといった利点があります。合成染料よりも手間がかかりますが、自然のものを使用するため、花などの植物と触れ合う機会が増えることは草木染めならではの魅力です。
自然な色合いでオリジナリティ溢れる仕上がりに
植物によって、個性のある色彩に染められるのも草木染めの魅力。ナチュラルなムラや、くすんだ色味を表現できるため、化学染料にはない仕上がりを楽しめます。
また、天然染料は色落ちしやすいですが、経年変化によって深みが表れるといった魅力もあります。長く使用することで、暮らしに馴染んでいく愛おしさも感じられるでしょう。
基本的な草木染めの作り方
自宅のキッチンでできる、基本的な草木染めのレシピをご紹介します。どのような色に染まるのか、色の移り変わりもぜひ楽しんでみてください。
材料
- 染める原料となる植物(今回は玉ねぎの皮を使用します)
- 牛乳、豆乳のいずれか
- 水
- ミョウバン5g(薬局などで購入可能。染める布の重さの8%の分量が目安です)
- 染める布
道具
- ボウル(下準備で布を漬け込む用)
- 鍋 2つ(媒染剤、染色用)
- 温度計
- 布袋(綿など水通しの良い素材で、鍋より一回り大きいサイズ。使い古したシーツなどを再利用して作ってもOKです)、または不織布の洗濯ネット
STEP①植物を用意する
まずは、草木染めの原料となる植物を用意しましょう。草木染めには、野菜や果物のほかにも花びらや葉っぱ、枝なども利用できますが、初心者さんにはスーパーで手に入る野菜・果物などを選ぶのがおすすめです。
STEP②染めるものを用意する
次に、草木染めしたいものを用意しましょう。草木染めできれいに染色するには、天然素材を原料とした「天然繊維」を使うのがおすすめです。ポリエステルやアクリルなどの化学繊維は染まらないため注意しましょう。
天然繊維には「植物繊維」「動物繊維」の2種類がありますが、草木染めにおすすめの素材は以下のとおりです。同じ原料でも素材によって染まる色が変わるので、違った素材でいろいろな染め物にトライしてみてください。
■植物繊維
- 麻(リネン)
- 綿(コットン)
- 葛布
- 竹(バンブー)
- 芭蕉布
※植物繊維を使用する際は、次のSTEP③で下準備を行います。
■動物繊維
- 絹(シルク)
- 羊毛(ウール)
- 山羊(カシミヤ)
※動物繊維を使用する際は、下準備を行わなくても染まりやすい傾向があります。
STEP③下準備をする
先ほど触れたように、綿や麻といった植物繊維は、動物繊維と比べると染まりにくい特徴があります。きれいに染めるために、布にタンパク質を染み込ませる下処理をするのがおすすめです。
下準備のやり方
- 牛乳(または豆乳)と水を1対1でボウルに入れる。
- 布をボウルに入れて漬け込む。
- 20~30分ほど経ったらボウルから布を取り出す。
- 水気を絞り、乾燥させる(水で洗わないようにしてください)。
STEP④染料を作る
次に、布を染めるための染料を作りましょう。みかんや玉ねぎの皮など取り出しにくい素材を使う場合には、不織布の洗濯ネットや布製の袋に入れておくと取り出しがラクになります。今回は布袋を使用した作り方をご紹介します。
染料の作り方
- 玉ねぎの皮を布袋に入れ、そのまま鍋に入れます。続いて、玉ねぎの皮が浸るくらいの水を入れましょう。
- 鍋に蓋をして、中火で1時間30分程度煮込みましょう。
※なすやみかんの場合の煮込み時間と火加減は以下のとおりです。参考にしてください。
なすの皮:30分程度(弱火)
みかんの皮:30分~1時間程度(強火) - 煮込んだあと、布袋を取り出します。これで染料の完成です。
STEP⑤媒染剤を作る
布の下準備と染料を作り終えたら、媒染剤を作ります。媒染剤とは、植物の色を布へ染着させるために、繊維を処理するための材料です。布を染料に漬け込む前にアルミや鉄の水溶液に浸けておくことによって、発色・定着しやすくなります。
媒染剤の作り方
- 鍋に水を1リットル入れて、40~60度に加熱します。このとき、お湯の温度が高くなるとミョウバンの効果が弱くなるため注意しましょう。
- 鍋にミョウバン5gを入れて溶かします。
- ミョウバンが溶けたら、媒染剤の完成です。
※なお、媒染の処理をする・しないとでは、以下のように染まり方に違いがあります。媒染してから染めるほうが、色が濃くしっかり発色しやすい傾向です。お好みで染め方を試してみるのも良いでしょう。
STEP⑥材料を使って染色~仕上げ
染料作りと媒染剤作りが終わったら、いよいよ染色です。
染めるときの温度が高くなるほど、鮮やかな色に発色しやすく、染める時間が長いほど濃く染まります。理想の色よりも少し濃く染めておくと、乾いたときに丁度良い仕上がりになりますよ。
染色~仕上げの手順
- 鍋に入れた染料を40度くらいまで加熱し、布を入れて浸します。このとき、染料の温度が高いほうが染まりやすくなりますが、高くても60度くらいまでにしておきましょう。
- 染まり具合を確認しながら、約20分ほど煮ます。均等に染まるように箸などで動かしながら煮るのがポイントです。
- お好みの色になったら、布を取り出して水でしっかり洗います。
- 布を水洗いしたら、STEP⑤で作った媒染剤に30分ほど浸け置きします。
- 30分浸けたら、布を取り出して水で洗い、日陰で干して乾かします。しっかり乾けば完成です。
草木染めにおすすめの材料
草木染めには、野菜や果物などさまざまな材料が用いられています。おうちで手軽にできる草木染めの材料には、以下のようなものが挙げられます。
■玉ねぎ
天然染料として有名なのが「玉ねぎ」です。食卓の常備野菜として馴染みのある玉ねぎですが、いつも捨ててしまう「皮」を利用して草木染めができます。黄色や茶色、ベージュといった優しい風合いに仕上がるのが特徴です。
■みかん
みかんの皮は、柑橘系ならではの爽やかな色味が出やすいのが特徴です。淡いオレンジ色や黄色、黄緑色といったナチュラルな仕上がりになります。
■なす
夏の野菜として定番のなすも、「皮」を使って綺麗な染色ができます。紫やピンク、えんじ色など深みのある風合いを出したいときにもぴったりです。染め方によってバリエーション豊富な色味を表現でできるのもなすの特徴です。
■赤紫蘇
赤紫蘇の草木染めは、染め方によってまったく違う色に染まる面白い原料です。ピンクや紫をはじめ、緑、青緑といった色に変化する過程にきっと驚くことでしょう。
■ヨモギ
お菓子や漢方などにも使われるヨモギは、若草色に染まる特徴があります。爽やかで明るい印象があるほか、和の雰囲気を感じさせてくれるのも魅力です。
■アボカド
さまざまな料理で活躍するアボカドは、皮と種を使って草木染めをすることもできます。アボカドといえば緑色ですが、染めると可愛いサーモンピンクに仕上がるので驚きです。
草木染めで自然のぬくもりを感じよう
野菜や果物といった身近な素材を使って布を染める草木染め。天然素材ならではのやさしい色合いは、自然のぬくもりを感じさせてくれます。
染める植物や素材、染める時間などによって表情が変わるので、どんな色に染まるのか見ているだけでわくわくするはずです。普段のお料理で使わない玉ねぎやなすの皮などを使って手軽に楽しめるので、ぜひ暮らしのなかに草木染めを取り入れてみてくださいね。