編み物作家のイケダトモミさんは、イギリスを拠点に活動をしています。かつて羊毛産業で栄えた国として知られているイギリスで、編み物サークルに所属する機会を得たイケダさん。そのサークルを通してクラフトにまつわるチャリティの様子が見えてきたのだそう。
今回は、イケダさんが感じた”編み物にまつわるチャリティ”の様子を教えてもらいました。
イギリスで参加した3つの編み物チャリティ
こんにちは。編み物作家のイケダトモミです。私が今年参加したチャリティニットは3つあります。
1つ目は、”The Big Knit”というチャリティ。innocentというスムージーなどのボトルの飲み物を売っている会社が主宰しています。
飲み物のキャップに被せる小さなサイズの帽子を編んで寄付するチャリティです。集まった帽子は飲み物にかぶせられて店頭で販売され、1つ売れるたびに25ペンスがAge UKという高齢者のためのチャリティ団体へと寄付されます。
2つめは認知症の人のための手遊び毛布作り。
認知症の人は、常に手を動かしたり何かを触っていたりしたい人が多いということから、手遊び毛布を作るために病院が10cm角の正方形をたくさん集めていました。様々な毛糸で編まれたいろんな手触りの四角をつなぎあわせ、毛布を作ります。
3つめはシェルターにいる猫のために、ネズミの形のおもちゃを編むチャリティー。
編み物ソサエティとキャットソサエティが合同で開催し、地元のシェルターにおもちゃを寄付しました。
チャリティニットの良いところ
チャリティのために何かを決められた作品を編んで、それを寄付する。材料費もかかるし、時間もかかる。お金や手間の面で考えたら、「その分募金をした方が早いし、相手も助かるんじゃないの?」という意見もあるかもしれません。しかし、実際にチャリティニットに参加してみることでたくさんの利点を感じることができました。
ひとつは、手間もお金もかかるのに、募金より気軽に参加できること。
不思議なもので、「高齢者の人のためのチャリティがあるんだけど、1000円寄付してくれない?」と言われるとちょっとためらってしまう私でも、「お年寄りのためのチャリティで帽子を編むんだけど、参加しない?」と言われるとちょっとやってみようかなという気持ちになりました。
世の中にはいろいろなチャリティがあり、ひとつひとつの問題を知り、どれにコミットするか決めるのは意外に大変なことです。でも「飲み物にかぶせるための帽子を編みましょう」や「商品が売れるたび高齢者のためのチャリティ団体へとお金が寄付されます」と言われると、自分がチャリティに参加するイメージがつきやすくなります。
たとえば、”The Big Knit”では帽子を編むためのパターンが無料で公開されています。どれも魅力的で作ってみたいと思うものばかりでした。楽しそうだしやってみようかな、と気軽に参加を決めることができるのです。
次に、チャリティ参加が記憶に残る体験になること。
チャリティニットに参加すると、実際に作品を作る体験を通して、こういうチャリティ団体があるんだ、こういう問題を抱えている人がいるんだ、と知っていくことができます。
例えば今回私は、認知症の人は常に何か手にもったり触ったりしたくなる人が多いことや、手遊び用の毛布を作って、毛布にはボタンやフリンジを作るとよい、など制作を通してちょっと踏み込んだ情報を知ることができました。
募金をするときに、認知症の人について同じ情報を聞いたとしても、その情報を覚えている人は少ないのではと感じます。しかし、チャリティと編み物といったアクティビティを結びつけることで、多くの人にその問題を理解してもらったり覚えてもらったりするきっかけになると感じました。
そして、いろんな人と知り合うきっかけになること。
チャリティニットに参加してみんなで一緒に編むセッションに参加すると、いろいろな人と出会うことができます。
例えば、シェルターにいる猫のためにおもちゃを編むチャリティーでは、編み物に興味がある人、そして猫が好きな人が集まりました。猫好きの人たちの中には編み物はまったくの初めての人もたくさんいましたが、編み物好きの人に教わりながら作品作りにチャレンジしていました。クラフトとチャリティを通して、人と人とがつながることができるすばらしい体験と感じました。
最後に、作品の使い道を考える必要がないこと。
「何か作りたい気分だけど今欲しいものがない」と思ったことがあるクラフト好きの方は多いのではないでしょうか。自分で使うにも人にあげるにも限界がある、作っても作品の使い道がない、だから作りたいけど作れない……。
チャリティニットはこの悩みを解消してくれます。どうしたら寄付した先が喜んでくれるかな、と考えを巡らせながら、新しい技法に挑戦してみるのもよし。テーマに沿って作品を作り、それを寄付する。寄付した先では自分の作品を役立ててもらえることがわかっている。こんなに気持ちよく作品作りに没頭できるのはチャリティニットならではと言っても良いかもしれません。
この点において初心者の人にとって素晴らしかったのは、手遊び毛布作りです。
10cm角ほどの四角をたくさん集めていたこのチャリティですが、この四角は初心者の人が初めての練習で編むのにぴったりのサイズです。
普通だったらこのような四角を編んでも、何にも使うことができず、捨てられてしまうこともあります。それが毛布になって病院で役に立ててもらえるのですから、こんなにうれしいことはありません。
これなら初心者の人でも、「これくらいのサイズでいいなら、ちょっとやってみようかな」とチャリティに参加しつつ編み物を体験するきっかけになります。
イギリスに根付いているチャリティ文化
編み物に限らず、イギリスでは日常的にチャリティのために何らかのアクティビティを開催しているという様子を見る機会が多くあります。
作品を作ること自体の楽しさだけでなく、人とつながる、人の役に立つ、そんな体験をさせてくれた編み物の魅力を改めて感じたチャリティニット体験でした。