この連載のライター
satsuki*
1991年、愛知県津島市生まれ。大学時代は情報理工学を専攻。2014年に名古屋のIT企業に就職し、スマートフォンのアプリ開発やロボットアプリ開発に関わる。2017年、株式会社太田七宝へ入社し、七宝焼の窯元後継者として修業中。趣味は、ディズニーに行くこととミュージカル観劇。
前回のストーリーはこちらから
→第1回 愛知の友達でも知らなかった「七宝焼って何?」
→第2回 会社を辞めて職人修行をすることを決めた理由
七宝焼クリエイターユニットとして2人での活動がスタートしたのは、私の退職とsakura*の大学進学のタイミングが重なったタイミングでした。
小さな頃から七宝焼に触れていた彼女も、自分にとっては身近なものなのに同じ世代の人たちにはあまり知られていないということは感じていたようで、若い人向けの七宝焼アクセサリーを作るというコンセプトに共感してくれました。
その人の特色を生かせば、同じものは生まれない
同じ想いを持っている私たちですが、活動をする中で、それぞれが持っている異なる強みが生かされているな、と感じることは多々あります。作風にも大きな違いがあるので、似た作品になることはまずありません。
sakura*は美術大学で日本画を専攻しており、色使いやデザインに学校で学んだことが生かされているなと感じることも多いです。私では思いつかないようなものばかりで、新作を見せてもらうのがいつも楽しみです。
sakura*のアトリエ
また、sakura*はしっかりデザイン画を描いてから作品に取り掛かり、仕上げていることが多いです。
sakura*のデザイン画
一方、私はデザイン画はほとんど描きません。実際に銀線を立てて模様を作りながらおおよそのデザインを考え、色をのせていきます。釉薬は普通の絵の具とは違って混ざることがなく、焼くと色が大きく変わる絵の具もあるため、今はいろんな色を使ってその違いを覚えながら作っています。
施釉中の様子
私は昔から細かいことが好きで、小学生の頃からビーズアクセサリーを作るのが趣味でした。そのせいか、私の作品は銀素地や銀線を使った小さな作品が多いです。ビーズアクセサリーを意識して七宝焼を作ったことはありませんが、考えてみれば少し似ているような気もします。
また、この仕事を始める前から雑貨や手作りアクセサリーが好きで、プライベートでも手作りのお店が集まるイベントに出かけることも多く、全くジャンルの違う小物からヒントを得てデザインすることもあります。たとえばこちらの「七宝つなぎ」のペンダントは、インスタグラムで見つけた刺し子と呼ばれる刺繍の作品が素敵だったので、七宝焼でも作りたいと思って生まれた作品です。
そして、私の前職での経験は、hana*のWEBサイト作りなどでも役立っています。2人の名前がピンク色の花の名前だったことと、優しいイメージがあることからピンク色をイメージカラーとして、手作り感が出るようにフォントにもこだわりました。ロゴの周りには、七宝の釉薬をのせた24色のハートが並んでいます。実物は6mmくらいで、ひとつひとつ銀板を手切りしたので、よく見ると形がいびつだったりします。
クリエイターズマーケットに出店して感じたこと
そんな私たちが初めてお客様の前に立ったのは2017年の夏、名古屋のクリエイターズマーケットというイベントでした。
このときに特に感じたのは、七宝焼の認知度の低さです。ひとりでも多くの人に私たちの作るアクセサリーを届けることで、七宝焼の良さを知ってもらいたい、七宝焼がどんなものかわかってほしいという思いは、活動を始めたころから変わりません。でも、その難しさはこの1年の活動を通して痛感しました。
「焼き物」というと、ろくろを回すイメージを持たれる方が多いですが、七宝焼は成形された金属にガラス釉薬を焼き付けて作る、その名の通り宝石のように美しい工芸品です。イベントで出会うお客様には綺麗!と言っていただけることはあっても、最近急速に普及したレジン樹脂のアクセサリーと間違えられることもしばしばで、その点はいつも苦労しています。
レジンと間違われたことを受け入れて、発想の転換でデザインに生かす
でも、それをきっかけに、レジンを使ったアクセサリーについても勉強を始めました。たしかに、今はレジンも透明度が高くて、七宝焼に近い見た目のものを作ることができます。それに、レジンアクセサリーの方が圧倒的に広く知られていますし、安価に手に入ります。そこで、両者の長所を組み合わせたデザインができないかと考えました。もしかしたら、今の時代だからこそ作れるような良い作品になるかもしれないという希望を持って、試行錯誤を続けています。
銀線で模様を入れたレジンアクセサリー
七宝焼という工芸をどう伝えるか、悩んだ末、最近はイベント時に銀線を立てる実演をしたり、SNSに制作過程をアップしたり、少しでも見てくださる方に七宝焼がどういうものか伝わるような表現を模索しています。小さな一歩ずつですが、私たちがより良いものを作り、少しでも長く活動を続けることが七宝焼の未来を作ることだと信じて、毎日活動しています。
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最終回に続きます。
→伝統も、自分自身の「作る喜び」も続けていく