こんにちは、Craftie Style編集部の斉藤です。
みなさんは「金継ぎ」をご存知ですか?金継ぎは、割れたり欠けてしまった陶磁器を、漆と金粉を使って修復する伝統技術です。
今は気軽に購入できる安価な食器もたくさんあるので、割れたら捨ててしまうという方も多いのではないでしょうか。私もそんな一人でした。金継ぎの存在を知った時は「割れたものが修理できるの!?」と驚いたものです。
そんなある日のこと、大事にしていたお気に入りの食器を落として割ってしまったのです。
それまで食器をお直ししたことはありませんでしたが、今回は壊れた器を修復すべく、こちらの金継ぎ体験ワークショップに参加してきました。
さて、どんなワークショップだったのでしょうか?
Craftie Style編集長の瀬戸とともに、当日の様子をレポートします。
居心地の良い空間で開催される「金継ぎワークショップ」
今回のワークショップの会場は、東京都世田谷区「三軒茶屋駅」から徒歩4分の場所にある「Cafe FUZE(カフェ フーゼ)」。大きな窓からあたたかい自然光が入る、優しい雰囲気に包まれた空間はとても居心地がよい場所です。
他の参加者の方のお話を聞いてみると、同じく金継ぎは初めてという方がほとんどでした。
この日私たちに金継ぎのやり方を教えて下さったのは、講師の吉岡さんです。
——吉岡さんは、どうして金継ぎ体験のワークショップをはじめようと思われたのですか?
吉岡さん:僕が最初に金継ぎを知るきっかけになったのが、大切な人の食器をあやまって割ってしまったことでした。割れた時は「どうしよう・・・!」と頭が真っ白になったのですが、とても大切にしていた食器をお金で弁償して解決するのは何か違うと思ったのです。
いろいろと調べていたら、食器の修復ができる「金継ぎ」というものがあることを知りました。それから本格的に金継ぎ教室に通い、割ってしまった食器を直すとともに、何かに集中する時間の充実感、修復できた時の達成感が心地よく、ほかの人にも金継ぎの魅力を知ってもらいたいと思うようになり、体験教室をはじめました。
——金継ぎは日本に古くからある技術なんですよね。
吉岡さん:金継ぎは室町時代に生まれた陶磁器の修復技術です。古くから日本では器の修理というものは行われており、物を繰りかえし、大切に使う文化はあったそうです。傷を装飾するという「金継ぎ」
割れてしまったお気に入りの食器たち
こちらが、今回金継ぎで修復する2つの器です。潔くきれいにパリンと割れてしまった小鉢と、
知らない間に欠けてしまった小皿。
私のお気に入りの食器たちを、今回は編集長に修復してもらうことにしました。
伝統的な金継ぎでは本漆を使用しますが、こちらのワークショップで使用するのは「新うるし」。手がかぶれにくく、また本漆よりも短時間で仕上げられるので、お直しした当日に持ち帰ることができるというメリットもあります。
金継ぎの前に、まずは器の形を整える
まず、割れてしまったお皿を元の形に組み立て、接着剤でつなぎ合わせます。接着剤は久しぶりという編集長、綿棒で慎重に付けています。
接着剤は、食品を載せる食器に使っても大丈夫なものを使用しているので修復完了後も食卓で使うことはできます。ただし、金継ぎした食器は電子レンジで加熱したり、食洗機で使うことはできないので、ご注意ください。
うまくパーツがはまらない部分がありましたが、先生のお手伝いのおかげで無事に接着完了です。
パテを使って欠損箇所を補修します
次に、ヒビやすき間をパテで埋めていきます。パテは、見た目は粘土のような欠損補修材。
2色のパテを指でこね、十分に混ざると補修材としての威力を発揮してくれます。それと同時に、だんだんと硬くなってくるので、ここからは素早く作業しなければなりません。
まずは欠けてしまった小皿からパテをつけます。欠けた箇所の形を補うように、周りの形になじませながら指や竹串を使ってつけていきます。
一方、割れた小鉢の細かいヒビには一体どうやってパテを埋めていけばいいのか・・・。
小鉢と見つめ合っていると、先生が様子を見にきてくれました。
——先生、このヒビにはどうやってパテをつけたらいいですか?
吉岡さん:このような細いヒビにパテをつける時は、指の腹を使って馴染ませるようにするとうまくいきますよ。
と、お手本を見せてくれた先生の手の動きを見て「なるほど、こうやってパテで形を補っていくのですね!」と頷き、楽しそうに手を動かしはじめました。
ん?しかし食器をよく見ると、パテがヒビの周りのあちらこちらにも・・・段々と表情の雲行きが怪しくなる編集長。
——先生、パテのつけ方はこれで合っていますか?
吉岡さん:んー・・・パテは本当に隙間の所だけで大丈夫なので、ヒビのところ以外はきれいにとってくださいね。
大変だった余分なパテを取る工程
時間の経過とともに硬くなりつつあったパテを取るのが大変だったのは言うまでもありません。(黙々と付き過ぎてしまったパテを取る編集長)
「ふう」と、いただいたお茶で一息ついた時、先生がお皿の様子を見にきてくれました。
吉岡さん:瀬戸さん!頑張りましたね!こんなにキレイに取れるなんてびっくりしました!
編集長は、ホッと安堵。
この後は、余分なパテをさらに紙ヤスリでやすって表面をなめらかにし、指で触って凹凸が無い事を確認できたらいよいよ最終工程です。
金粉と新うるしで食器を彩る
新うるしと金粉を混ぜたものを、筆や竹串を使ってパテの上を慎重になぞっていきます。
編集長、一言も聴き逃すまいと先生のレクチャーをしっかり聞いて取り組みます。
吉岡さん:筆や竹串の先に、新うるしと金粉を混ぜたものをつけます。一般的には線が細い方が美しいとされていますが、お好みの線を描いていただいて大丈夫ですよ。また、新うるしはかぶれないと言われていますが、体質に合わない方もいらっしゃるので、触らないように注意してくださいね。
苦難の道を乗り越え、いよいよ金色を入れる工程に入った編集長は再び気を引き締め、筆を持ちます。まずは欠けた小皿から。乾いたパテの上に金色を置いていきます。
割れたお皿のヒビは細いので、こちらは竹串で挑戦です。
完成!割れた食器が趣あるものに
うつわを走る金色の軌跡が、小鉢を趣あるものに!
欠けの小皿も、金継ぎ部分がアクセントとなり、魅力的なうつわとなりました。
この時点ではまだ新うるしが乾いていないので、自宅で2~3日間、自然乾燥をさせました。その後、ツヤを出すためにオリーブオイルで金色部分を磨いたら、完成です。
はじめての金継ぎワークショップはどうでしたか?
——使ったことのないアイテムや慣れない工程もあって、想像していたよりも難しかったです。でもその分、「初めてでもできた!」という達成感があります。途中で困ったらその場で先生にアドバイスを聞くことができるし、もし間違えてもお手本を見せてくださるので安心してトライできました。ワークショップだと、一人で自宅で取り組んでも仕上げられなかったようなものができあがったり、先生の手の動きを見てコツを学ぶことができたりするところがいいなぁ、と思いました。
吉岡さんも、「一時はどうなるかと思いましたが、無事に完成して良かったです。」と一緒に喜んでくれました。
参加者の皆さんと作品を見せ合いながら器のエピソードを聞きました
ワークショップでは、他の参加者の方々との交流も楽しい時間。
時にはわいわいと話を弾ませ、時にはそれぞれ作業に没頭し。終わった後、他の方と作品を見せ合う中でいろいろなエピソードを聞きました。
「複雑に割れてしまった大切な食器をなんとか直したい!」と大事な食器を修復するために参加された方もいれば、「金継ぎに興味があったので、割れたお皿を買ってきました」という方まで。
お母さんからもらった大切なお皿を割ってしまい、金継ぎの方法を学ぶために参加されたという女性は「また割れても大丈夫、と考えられるようになった」とおっしゃっていたのが印象的でした。ワークショップでの体験は、ものづくりの楽しさを知るだけでなく、新しい考え方の発見にもつながるのですね。
ワークショップを通して「金継ぎ」の魅力を知ってほしい
金継ぎ体験ワークショップは、初めての人でも金継ぎができるよう、先生が丁寧に教えてくれるのが嬉しいポイントのひとつ。「興味はあるけど一人ではやり方がわからない」という方、「誰かと一緒に取り組みたい」という方はぜひ、ワークショップに参加してみてはいかがでしょうか。
吉岡さん:参加してくださる皆さんには、この場所で金継ぎをする時間を、気持ちの良いひとときとして過ごしてもらえたらと思っています。そして、金継ぎをすることで「器は壊れてしまっても蘇る」ということを伝えたいです。思い出の器は壊れてしまっても泣く泣く捨てなくていい。欠けた器を気にしながら使わなくていい。その考えを広めていきたいです。
(文・写真:斉藤はるか 体験:瀬戸愛佳)