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リカシツが広げる理化学ガラスの可能性。本物の実験器具だからできることがもっとある|リカシツ(関谷理化株式会社)

サボテンの根を見たことがありますか。

地面に植わっているサボテンしか見たことのないわたしは、取材で訪れたリカシツ蒸留所でそれを初めて見ました。三角のフラスコに乗ったサボテンから伸びていたのは、わしゃわしゃとした根っこ。

「透明なガラスじゃないと、サボテンの根っこは見られないですよね。ガラスの性質や特性をうまく伝えながら理化学ガラスのよさをみなさんに知ってもらいたい。そんな思いから作られたのが、このリカシツなんです」

そう話すのは、リカシツを運営する関谷理化株式会社の営業部部長・猪野和雄さんです。

こだわりのものづくりをする方にお話を伺うCraftie Styleのインタビュー。今回は実験に使われる「理化学ガラス器具」をインテリアとして再提案する東京・清澄白河のお店『リカシツ』のお話を伺いました。

お店プロフィール:リカシツ

東京・清澄白河に2015年オープン。理化学ガラスの老舗卸問屋「関谷理化株式会社」のアンテナショップとして、研究や実験に使われる理化学ガラスを暮らしになじむ新しいインテリアとして販売している。2018年には蒸留をコンセプトにした理科室蒸留所をすぐ近くにオープン。

学校や実験室にあった理化学ガラスを、もっと身近に

——リカシツを運営する関谷理化株式会社は、理化学ガラスを昔から扱っていたと公式サイトで拝見しました。

猪野今年2019年で創業86年になります。戦後、基礎研究を進めるにあたり使われる研究用品を作っていて、現在は学校や製薬メーカーなど全国に理化学ガラスを卸しています。

研究用のビーカーや試験管を病院に納めているので、みなさまの生活を影で支えていることは作り手側として感じてはいます。でもそういう会社はあまり表舞台には出ませんよね。

この業界でも、職人さんの高齢化が進んでいるんです。東京の一番上は90歳。60歳でもまだ若いと言われる世界です。

——そんなに高齢化が進んでいるとは知りませんでした。

猪野そう。だからもっと理化学ガラスを知ってもらいたい、興味を持ってくれる方を増やしたい。そして職人さんを志す人が増えてほしいという思いからアンテナショップという形で2015年にリカシツを始めました。

——理化学ガラスって、普通のガラスとは何が違うんですか?

猪野耐熱性があって安全な素材であることが、一番の特徴です。例えば窓ガラスは60℃ほどの熱にしか耐えらないので熱湯をかけたら割れてしまいます。一方で理化学ガラスは温度差100℃~120℃までなら対応できるので、熱湯をかけても割れることはありません。

それともう一つ、加工もしやすいことも特徴です。普段から研究室の先生に「この口を広げてほしい」といったリクエストにお答えすることもあります。

——理化学ガラスってすごいんですね。知りませんでした。

猪野ただ、理化学ガラスもガラスです。落としたら割れてしまいます。物質には長所と短所があるので、ガラスには割れやすい性質があることを伝えた上で透明性や耐熱性などの良さを知ってもらえたらうれしいですね。

何気ない一言と職人さんの機転からできたヒット商品

——お店でビーカーに取手のついたマグを見つけました。

猪野あれはね、理系の大学生から言われたんです。「研究室でカップがない時にビーカーを使うことがあるけど、熱いものが飲めない」って。じゃあ考えてみるか、と職人さんに相談したところマグカップのような持ち手のあるビーカーができたことがきっかけです。

おもしろいねって販売したら、今では12,000個ほど売れているヒット商品です。

——日常でも使いやすい形ですよね。

猪野持ち手をつけたことで一般のお客さまがビーカーに触れる機会も増えるし、職人さんの技術も生かされている商品なので、人気になったのはうれしいですね。

——これも普通のビーカーと同じような耐熱性があるんですか?

猪野もちろん。だから電子レンジにかけることもできます。

取手付きビーカーはサイズ展開もあります。

猪野取手付きビーカーはお子さんがいるご家庭で使うときも便利なんですよ。例えば朝、お子さんにホットミルクを飲ませたい時も普段なら牛乳出してお鍋で温めてマグに入れ替えて、でもちょっとお子さんがグズったら冷めちゃってまたお鍋で温め直して……なんてことあるかもしれません。でも耐熱の取手付きビーカーならこのまま簡易的な計量もできてレンジで温めて、そのまま食卓に出してマグとして使える。冷めても、もう一回レンジで温めたらいいだけです。

——計量カップ、お鍋、マグがひとつに! 洗い物が減るのも忙しい朝にはうれしいですね。

リカシツやワークショップから広がる人の関わり

——リカシツではワークショップも行っているんですよね。

猪野はい。理化学ガラスの良さをよりPRできないかと始めたのがワークショップです。一番最初にはじめたのが苔のテラリウム。瓶の中に本物の苔を入れて育てるものです。

今も苔テラリウムのワークショップ講師をしてくださってる川本毅さんが4,5年前くらいにたまたま器を探しているときにリカシツに来てくれて、ちょうど探していたようなものに出会ったのがきっかけで話が進んでいきました。

苔テラリウム

——最初は偶然の出会いからなんですね。

猪野そうですね。アロマのワークショップ講師の橋本由佳さんは日本でアロマが広まる前からアロマの第一人者に師事されていた方で、もともとここから10分ほどの場所でアロマの教室を開いていました。橋本さんもやっぱり器を探していたことをきっかけに来ていただいて意気投合したんです。

もうひとりのアロマ講師の和田文緒さんも『アロマテラピーの教科書』という20万部ほどのベストセラーを持つ方。どの方も意図して働きかけたわけではないんだけど、自然にプロの方々とつながっていましたね。

リカシツがプロデュースした家庭用アロマウォーター専用蒸留器『リカロマ』。
リカシツFacebookより引用。

猪野ワークショップは10人ほどの少人数でやっているのですが、参加された方が今度は友達を連れてきてくれて、さらに子どもと一緒に参加してくれて……とクチコミで広まっています。アロマは季節によって内容が変わるのでリピーターの方もいらっしゃる。講師も含めて、リカシツを通して人がつながっていく良い関係性が築けている実感はありますね。

——SNSの「#リカシツ」で見たワークショップ参加者の方の感想も、すごく楽しそうでした。

猪野今の時代、SNSですぐに反応が返ってきます。メールでも感想をいただくこともあります。2ヶ月後くらいに育ちすぎてしまったテラリウムの苔をどうしたらいいか、なんて相談が寄せられることもありますね。

——自然体でつながっていく関係性が素敵です。

もっと自由に理化学ガラスを楽しんでもらいたい

——店内にはグリーンがたくさんあるんですね。

猪野ガラスっていうのは植物と組み合わせると柔らかさが出るんです。ガラスは無機質ですからね。

華道の先生がお花を生けるために、と購入されることもあって。そのときはフラスコを斜めに切ったものがほしいとのリクエストを受けて、お渡ししました。

斜めにカットされたもの。リカシツ 公式サイトより

——フラスコを斜めとは発想が自由ですね。

猪野ガラスだからこそ見せられる表現があるんですよね。素材のひとつと言ってしまったら語弊があるかもしれないけど、リカシツの製品を素材としてどう使うかはお客さま自身が考えてもらえたら。リカシツにある商品を見たお客さまが、何か気づいてくれるきっかけになったらいいなあって思いが原点にあるんです。

猪野植物との組み合わせといえば、例えばコルク栓。これはフランスやスペインのワインのコルクに使われているものと同じ素材で、試験管とセットで購入される方も多くいらっしゃいます。もちろんこれも、製薬メーカーさんや研究室で使われているのと同じものです。

——理化学の現場で使われる本物なんですね。

猪野そう。だからリカシツにあるものはインテリアとしても使えますが、インテリアとしては作っていないんです。研究用に使う、本物です。だから品質を落とすことはまずしません。理化学ガラスと真剣に向き合っているからこそ、その利点を多くの方に伝えていきたいんです。それを理解して手にとってくれるお客さまが増えたのはとてもうれしいことだし、もっと伝えていきたいですね。

リカシツ

住所:東京都江東区平野1-9-7 深田荘102
営業時間:平日(13:30~18:00) 土曜、日曜、祝日(13:00~18:00)
休業日:不定休 (リカシツHP内の最新情報にてご確認ください。)
公式サイト:https://www.rikashitsu.jp/home.html

(文・ツチヤトモイ 写真・都築はるか)

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ライター

Craftie Style編集部
Craftie Style編集部
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